日本人の出稼ぎ先!? 多民族国家シンガポールを体感し、ドイツで戦争の爪痕をめぐる…池上彰さんと増田ユリヤさんによる、旅する気分で学べる一冊

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更新日:2023/2/16

歴史と宗教がわかる! 世界の歩き方
歴史と宗教がわかる! 世界の歩き方』(池上彰、増田ユリヤ/ポプラ社)

 時代は「ウィズ・コロナ」になった。日本国内でのインバウンド需要復活への期待も高まる一方、海外旅行を楽しみたいと思う人たちもいるだろう。

 ジャーナリストの池上彰さんと増田ユリヤさんの共著『歴史と宗教がわかる! 世界の歩き方』(池上彰、増田ユリヤ/ポプラ社)は、ベトナム・シンガポール・イスラエル・トルコ・ドイツ・フィンランド・イギリス・アメリカの8カ国へスポットを当てた書籍である。各国の社会背景や名所を学べる本書は、池上さんと増田さんと共に現地を歩いているかのような感覚に浸れるガイドブックだ。その一部を、紹介していこう。

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移住先として注目のシンガポールで「多民族国家」を体感

 オリエンタルラジオ・中田敦彦さんの移住も話題になったシンガポール。かつては「ブランド品のショッピングを楽しむ国」の印象もあったというが、現在は、「日本人の移住や出稼ぎ先」として知られている。

 その理由は、国土が「東京23区と同じぐらいの大きさ」の小国であり、「土地も資源もなく、これまでも海外の人材を活用」して経済成長を遂げてきたからだ。「技能があれば、比較的簡単にビザがおり、給料も日本よりいい」と池上さんが解説する。また、国内は「中国人、マレー人、インド人など、民族も宗教も違う人たち」が暮らす多民族国家でもあるが、その空気を体感できる名所が「リトル・インディア」や「アラブ・ストリート」である。

歴史と宗教がわかる! 世界の歩き方 P51

 電車のリトル・インディア駅を降りると、辺りにはスパイスの香りがただよう。駅から徒歩5分ほど行くとシンガポール最古のヒンドゥー教寺院、スリ・ヴィーラマカリアマン寺院があり、その先に見えるコンクリート造りの建物との対比が「何ともシンガポールらしい」という。さらに歩くと、キリスト教の教会やイスラム教系の学校があったりと「異国情緒にあふれている」。小一時間ほどで、アラブ・ストリートへたどり着く。その一角にあったこじゃれカフェで飲んだトロピカルドリンクは、歩き疲れた体にしみわたりました、と著者の増田さんは振り返る。

勤勉さも似ているドイツでは「第二次世界大戦」のなごりが各所に

 代表同士が「2022 FIFAワールドカップ カタール」で白熱した戦いを繰り広げたのも記憶に新しいドイツは、日本と同じく第二次世界大戦の敗戦から経済復興を遂げた国である。生産性が高いと言われることもあり、「朝9時にきっかり仕事を始め、猛烈に仕事をして、12時にお昼休み、また猛烈に仕事、17時に仕事を終えます」と著者の池上さんが解説する一方、年間休暇はフランスより多いというのは驚きだ。

歴史と宗教がわかる! 世界の歩き方 P149

 かつて、東西に分かれていたドイツの併合を象徴する「ベルリンの壁」のほか、国内にはさまざまな名所がある。そのひとつが、「カイザー・ヴィルヘルム記念教会」だ。第二次世界大戦でイギリス空軍に破壊されたままの状態で残された教会は、今なおプロテスタントの信者が多く訪れる。いわば、日本の「原爆ドーム」と同じく、戦争の爪痕をその地に刻んでいるのだ。

歴史と宗教がわかる! 世界の歩き方 P148

 また、戦時下で迫害されたユダヤ人の人々のなごりもある。彼らの住んでいた家の前には「つまずきの石」というプレートが埋められている。その大きさは10センチメートル四方で、「本当に歩いていると、つまずくように置いてあります」と感想を伝えるのは著者の増田さんだ。元々は「ベルリン出身の芸術家グンター・デムニヒさんが始めたプロジェクト」で、プレートにはユダヤ人たちの「名前や亡くなった年など一人ずつの情報が1枚ごとに」刻まれているという。

 他国について、集中して学べる機会は少ない。知識を与えてくれるだけではなく、現地の空気まで伝えてくれる本書は、海外に興味がある人にピッタリの1冊だ。掲載された国々へ渡る前に読めば、現地を歩くのもいっそう楽しくなるはずだ。

文=カネコシュウヘイ 写真=増田ユリヤ