住む人がいない地方の実家、使い道のない店舗付き住宅…不動産相続の闇と「いらない不動産」に苦しまない方法

暮らし

公開日:2023/2/17

負動産地獄 その相続は重荷です
負動産地獄 その相続は重荷です』(牧野知弘/文藝春秋)

 人の子である限り、誰もが直面するのが相続問題。しかし忙しい現代人の多くはいつか来る相続について、「もらえるものがあるならもらっておけばいいか」という程度に考えているのではないだろうか。そんなテーマに「相続した人を苦しめる不動産」というアプローチで切り込むのが、本書『負動産地獄 その相続は重荷です』(牧野知弘/文春新書)だ。

 著者の牧野知弘氏は、これまで大手不動産会社などで不動産買収や開発などを手がけてきた不動産のプロ。本書では、知らないと後々苦しむ、不動産相続の負の側面を解き明かしている。そもそも相続とは何か、相続税はどんなケースで発生するのかという基礎知識を丁寧に説明した上で、団塊世代が後期高齢者になる今後、相続や相続税の対象が増えること、激化する相続税対策の落とし穴や、相続された不動産に子どもが苦しむケースなどを詳しく解説する。

 なかでも読者にとって興味深いのが、相続した者を精神的・金銭的に苦しめる「いらない不動産」の問題だろう。たとえば、親が亡くなった後、住みたい家族もおらず売り手もつかない地方の実家。郊外ニュータウンの一戸建て、相続税対策で建てた賃貸アパート・マンション、シャッター通りの店舗付き住宅などだ。

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 相続に関する知識が少ない人でも、不動産に対して現金で相続税がかかる問題や、空き家を持っているだけで税金がかかることなどは想像がつく。しかし実際、不動産相続には他にもさまざまなリスクが潜んでいるという。空き家が傷むのを防ぐメンテナンスの手間、賃貸用に建てたアパート・マンションの老朽化が招く負担、タワマン投資の落とし穴、高級住宅街の豪邸の処分の難しさなど、タイトルにあるように不動産相続が「地獄」や「重荷」になる事例が多く紹介される。「相続されて要らなければ売ればいいだろう」ぐらいに思っていた読者は度肝を抜かれ、「うちの実家って資産価値あるのかな」「親戚のあの賃貸マンション、うまくいってるのかな」などと、身近な不動産のことが心配になってくるだろう。

 将来の相続が怖くなるような言葉も多いが、本書では、資産になる不動産とそうではない不動産の見分け方や、空き家の価値を上げる方法、売却のコツなども伝えているため安心してほしい。あらかじめ対策を打つことで有効活用もできるため、引き継いだ不動産を未来につなげようという明るい発想も生まれる。不動産相続の問題の背景にある日本の高齢化や経済の問題も詳しく伝えているため、納得感を持って相続に臨めるはずだ。

 最終章で登場する「相続税100%」という意外な著者の提案など、読み物として面白い話題も多い。将来に役立つリスクへの対処法と、「相続に潜む日本社会の問題」という、人に話したくなる知識を同時に得られるおトクな一冊だ。

文=川辺美希