悩み相談に解決策の提案は不要! 年間500人以上に“会いに行く”牧師が教える、聞き方の極意

暮らし

公開日:2023/2/11

人の話は、ただ聞けばいい
人の話は、ただ聞けばいい』(石川有生/自由国民社)

 コミュニケーション能力に自信がなく、相手を前にするとドギマギしてうまく話せない。そしてそんな性格を変えたくても変える方法が分からない――という人は多いのではないだろうか。

 だがこの『人の話は、ただ聞けばいい』(石川有生/自由国民社)を読むと、そんな自分を許すことができ、いつも聞き手に回りやすいことを受け入れられ、今よりうまくコミュニケーションがとれるヒントを得られるかもしれない。

 なぜなら本書は、コミュニケーションをとる上で本当に大切なのは、話す力ではなく、聞く力であると教えているからだ。著者の石川有生氏は、相談に来る人を教会で待つのではなく、自ら会いに行って人々の悩みを聞くというユニークなスタイルを確立した牧師。

 このスタイルに行きついたのは、自身が東日本大震災で被災した時や、うつ病を患った時、寄り添い励ましてくれる人たちがいたことへの感謝の気持ちがあったからだという。困り果てている時、悩みを聞いてもらうために自ら動くことの難しさを痛感したからこそ、「会いに行く牧師」となった。

 今や年間500人以上に会い、相手の心に寄り添い続けている石川氏は、いわばコミュニケーションのプロ。本書には、そんな石川氏が導き出した聞く技術や話を引き出すコツがたっぷりと収録されている。

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人の悩みは解決しようとしなくていい。聞き上手になれる3ステップ

 様々な人の悩みを聞く中で石川氏が気づいたのは、気の利いたことを言うよりも聞くことに徹することの大切さ。

壁打ち相手になっていると言ってもいいかもしれません。話を聞くということは、心をさらけ出してもらってスッキリしてもらうことです。「聞き上手は話させ上手」だとも言えます。

 人から悩みを相談されるとついアドバイスをしたくなるものだが、石川氏は、解決策を提示しなくていいと語る。実際、石川氏は牧師として、結婚すべきか迷う女性や子育てに悩む母親、仕事がつらいと苦しむ人々と向き合った際、聞き役に徹し、とことん話してもらうことで救ってきた。

人の話は解決しなくていいのです。むしろ解決しようとしないでください。相手が話してくれることを受け止めることが一番の解決です。

 自分が耳を傾けることで、誰かの心が明るくなるのかもしれないという嬉しい気づきを、世の話し下手さんたちに与えてくれる。

 そうはいっても、いつも聞き役に徹しているのにうまくコミュニケーションできていない……と嘆く人もいるだろう。そんな人は、聞き上手になれる“聞く技術”を実践してほしい。

 石川氏によると、コミュニケーションをとる時は「聞いて」「共感して」「褒める」という3ステップの聞き方を意識することが大切なのだとか。

 話を聞く時はアドバイスや否定、言葉の遮りなどをしないよう心がけ、共感する時は安易に「分かる」という言葉を使わないのがポイント。相手につらいことがあった時などは、「そのつらい気持ち、分かりますよ」と言いたくなるが、真の共感とは相手の感情に寄り添い、確かめるように聞くことだと指摘する。この場合であれば、「つらいのですね」と相手の感情をオウム返しするのがよいという。

 褒める場合は、会話中に1回だけでOK。ただし、「センス」「得意なこと」「内面」という順に、3方向から褒めるのがカギ。この3方向から褒められると、人は心から肯定されていると感じられるのだとか。

「この人となら、もっと話したい」と人に安心感を与えられる存在になることが、聞き上手になる近道なのだ。

悪口を聞かされた時の対処法は?

 本書には、聞く力を磨いて会話を弾ませるコツや、相手のタイプ別に応じた“聞く技術”なども収録されている。細かく、的確なアドバイスは目からウロコだ。

 なかでもなるほどと思わされたのが、人の悪口を打ち明けられた時の対処法。悪口は安易に共感をすると、後に思わぬトラブルに繋がる可能性があるため、返答に迷ってしまう。

 そんな状況に置かれた時に著者が勧めるのは、内容ではなく相手の感情に共感すること。「あの人は嫌な人なんです。そう思いますよね」と同意を求められた場合は、「嫌なことがあったんですね」と肯定も否定もせず、ただ相手の心に寄り添えばいいとアドバイスしている。誰も傷つかないこの対処法は、同僚や友人と円滑な関係を築きたい時に大いに役立ってくれるだろう。

 コミュニケーションをとる時に、ちょっとした意識と工夫をするだけで相手との関係はガラリと変わる。人の心を掴む、聞く技術。ビジネスシーンはもちろん、大切な人に寄り添いたい時に活用してほしい。

文=古川諭香