「自己否定グセのある人の力になれれば」――『自分へのダメ出しはもうやめた。自己否定の沼から脱出したわたしカウンセリング日記』作者・ノガミ陽さんインタビュー

マンガ

公開日:2023/2/19

 幼い頃からの環境が原因で自己肯定感が育まれず、大人になるまで自己否定グセに苦しんできた著者が、自らとの対話で自分を責める思考のクセを解消していく過程を綴った『自分へのダメ出しはもうやめた。自己否定の沼から脱出したわたしカウンセリング日記』(オーバーラップ)。著者・ノガミ陽(あきら)さんに、本作で大切にしたポイントや、同じように自己否定の悩みを抱えている人へのメッセージを伺いました。

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――昨今、日本の若者の自己肯定感の低さがニュースなどで取り上げられることが多いですが、「自己否定グセ」をテーマに描こうと思ったきっかけを教えてください。

ノガミ陽さん(以下、ノガミ):きっかけは私がマンガやラジオなどで人の悩みや葛藤を見たり聞いたりした際に、自分のしんどい気持ちが和らいだ経験をしたことです。

 私自身も自己否定グセに長年悩んでいました。しかしそれをどう解決していいかわからず、むしろ「そんな風に考えるのは自分だけなのではないか」「自分はおかしいのではないか」とより自分を追い詰め、ひどく孤独を感じていました。

 でも同じような悩みを持つ人の考えや気持ちに触れた時「自分だけじゃなかったんだ」と知り、孤独な気持ちが少し和らぎました。それで自己否定そのものが解決するわけではありませんが、自分だけがおかしいわけじゃないと思えると、何かやってみようという勇気や気力が湧くようになりました。

「悩み」や「しんどさ」を作品や芸に昇華することができれば、誰かの孤独を癒すことができるのかもしれない。自分の自己否定グセも巡り巡って別の誰かの力になるといいなと思い、このテーマで作品を作ろうと決めました。

 とはいえ、それを描くのは想像より難しく、形にできたのは私自身が自己否定と折り合いがついてからでした。

自分へのダメ出しはもうやめた。自己否定の沼から脱出したわたしカウンセリング日記

――本作も、同じように自己否定グセや、自信がないといった悩みを抱える方の支えになっていると思いますが、描き上げるまで相当な苦労があったのではないでしょうか。

ノガミ:自分のモヤモヤしている心のうちやグルグルしている頭の中を他の人が理解できる形にすることに苦労しました。

 作品を描いている時に編集さんから「どうしてそんなに自分を追い詰めたんですか?」と聞かれたのですが、私も答えられませんでした。「実際にそう感じたんです」としか言えず、私自身「なぜ自分を否定してしまうのか」実はよくわかっていないことに気がつきました。自分ですらわかっていないことを人に説明できるわけはないので、まず「自己否定とはなんなのか」を自分なりに理解することに努めました。

 そしてそれを読む人にどう説明するのかにも大いに悩みました。自己否定は自分の内面で起きていることなので、他人にわかってもらえるように説明するのは非常に難しかったです。いっそ自分の外、他人の言動だったり出来事だったりを理由にできたならわかりやすいのかなとも思いましたが、それをしてしまうと自分と向き合う話ではなくなってしまう気がして。

 だから、モヤモヤとした気持ちや考えを丁寧に言葉にすること、自分自身の内面に集中することにこだわりました。

自分へのダメ出しはもうやめた。自己否定の沼から脱出したわたしカウンセリング日記

自分へのダメ出しはもうやめた。自己否定の沼から脱出したわたしカウンセリング日記

――確かに、ご自身とひたすら向き合い、見過ごしてしまいがちな日常の些細な感情や心の機微を描かれているなと感じますが、ほかに注意したことはありますか。

ノガミ:そうですね……言葉の使い方には注意しました。意味をわかっているようで、実はわかっていない言葉が世の中にはたくさんあるので。

 例えば「ストレス」という言葉を日常的に使っていますが、それが具体的に「なにか」はよくわかっていませんでした。調べると「外部からの刺激によって生じる体内の反応」などの定義が出てきましたが、私は普段そういう意味で「ストレス」という言葉を使っていませんでした。もっと「不快だ」とか「しんどい」みたいな感覚的なものと捉えていました。

 専門用語や馴染みのないカタカナ語はいろんな意味を持つので便利ですが、自分が理解していなくても説明できた気になれてしまうのでなるべく使わないようにしました。そのため心の変化はキャラクターの表情やたとえ話などで表現して、できるだけわかりやすい言葉で読者に伝えられるよう心がけました。

 そして自分がわからないことはわからないものとして描くよう気をつけました。私は専門家ではないので、自己否定の原因や改善の理屈など、実際のところはよくわかっていません。わかっているのは自分が元気になったという結果だけです。だからわかった気になって描かないよう気をつけました。

自分へのダメ出しはもうやめた。自己否定の沼から脱出したわたしカウンセリング日記

自分へのダメ出しはもうやめた。自己否定の沼から脱出したわたしカウンセリング日記

――体験ベースで描かれているからこそ、悩みが改善された様子がリアルで読み手として納得感がありますが、実際にノガミさんが本作で目指したのはどんなところでしょうか。

ノガミ:コミックエッセイの講座で「エッセイとは作者の経験や感情を読者が追体験できるような作品」であると学んだので、現実にどこかにいる誰かの記録を読んでいるかのような作品になるといいなと思って描きました。

 読んでくれた人が自分の人生と重ねられ、そしてご自身の人生について誰かに話したくなるような、そんな等身大の人間の物語として受け取っていただけたら作者としては幸せです。

――最後に、今まさに自己否定に悩んでいる方にメッセージをお願いいたします。

ノガミ:自分を否定するとしんどいです。だから否定しない方がいい。と、わかっていてもそれがなかなか難しい。感情は勝手に湧いてくるし、考えは勝手に浮かんでくる、それを止めることは意志の力だけではなかなかできない。頭も心もままならないものだなぁと、私は思います。

自分へのダメ出しはもうやめた。自己否定の沼から脱出したわたしカウンセリング日記

自分へのダメ出しはもうやめた。自己否定の沼から脱出したわたしカウンセリング日記

 もし今、自分との向き合い方に悩んでいたら、あなたはまずすごく難しいことにチャレンジしているのだと伝えたいです。だからうまくいかなかったとしても難しいことだから何度も失敗を重ねるのは当たり前だと思うし、できないからって自分が悪いとかおかしいとか思いつめないでほしいなと思います。

 自分と向き合うなんて難しいことに挑戦してる時点で、私はあなたのがんばりに拍手を送りたいです。