あらゆる分野で天才なのに、家族に褒めてもらえない! ついに家出を決意した「無自覚」な天才少女の行く末は…? 大人気小説のコミカライズ
公開日:2023/2/18
上には上がいる。それは分かっていても、努力してそれなりの結果を出したのなら、せめて身近な人にくらいは認めてほしい。褒めてほしい。そう思うのは当然のこと。ましてや、褒めてもらえないのが自分だけ、なんてことになれば、「自分は相手にとって何なのだろう?」と思ってしまいかねない。
『無自覚な天才少女は気付かない』(伊吹有、まきぶろ/白泉社)は、そんな褒めてもらえない境遇の中生きてきた天才少女の物語。小説投稿サイトで連載された原作小説は、『無自覚な天才少女は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~』(アース・スター エンターテイメント)として、3巻まで書籍化されている人気作。本作は白泉社が運営するウェブコミック配信サイト「マンガPark」で連載されているそのコミカライズ版だ。
この作品の主人公は、学問、魔法、剣、錬金術、芸術とあらゆる才能を持つ公爵令嬢リリアーヌ・カーク・アジェット、通称リアナ。各分野の最前線で活躍する家族を師に持ち、幼い頃から少しでも家族に近づきたいと努力を続けてきた。しかし、いくら努力をしても、成果を出しても、家族はまったく褒めてくれない。でもそれは、自分の実力が足りていないせい。そう思っていたのだが。
あるとき、光魔法が発現した遠縁の娘・ニナを、リアナの義妹としてアジェット家に迎え入れることとなった。そしてここから、リアナの「頑張ればいつか褒めてもらえるかもしれない」という僅かな希望すら打ち砕かれていく。ニナは未熟で拙いあいさつやお茶の作法でも簡単に称賛されるのに、リアナはコンクールでプロ顔負けの結果を出しても一言も褒めてもらえないのだ。
ある日、リアナはニナの狩猟会デビューのサポート役を頼まれる。しかしニナは彼女の言うことを一切聞かず、身勝手な行動ばかり。しまいには巨大なスライムに襲われて、命を危険にさらすことになってしまった。リアナが命がけで守ったことでどうにか助かった2人――だったはずなのだが、なんとニナは、すべてをリアナのせいに仕立て上げていた。
家族は来たばかりの義妹の話を鵜呑みにし、一方的にリアナを責める始末。この状況に耐えかね、リアナはついに家を出ることを決意する。そして髪を切って錬金術師となり、その後旅先で知り合った冒険者の美青年・フレドとの出会いがきっかけで冒険者へと転身する。その先では、皆の予想外の反応が待っていて――。
アジェット家では誰にも認めてもらえなかったリアナだが、一歩外に出れば彼女はまさに才能の塊。冒険者としても情報収集から分析、戦闘、魔法まですべて1人でこなして人々を驚かせ、圧倒する。その中で、自分を認めてくれる商人・トノスやフレドをはじめとした仲間もでき、少しずつ心を溶かしていく。
いくら才能があって天才でも、認めてくれる人がいなければ「無」に等しい。本人も、それが「才能」であると気づくことすらなく一生が終わってしまうかもしれない。そんなもったいないこと、と思うが、これは何も物語の中に限ったことではなく、現実世界でもそこかしこで起こっている。どういった事情から発生しているかはそれぞれだが、周囲が優秀すぎる以外にも、周囲の愚かさ、嫉妬や妬み、相性の不一致などで可能性が潰されることも多いのではないか。この作品から、その悲しさ、悔しさを改めて感じさせられた。
1巻後半では、リアナがアジェット家を抜け出したことがばれ、ニナが不穏な空気を滲ませる。今後もニナはリアナを追い詰め、悪意をぶつけていくのだろう。ニナはなぜ、こんなにもリアナを貶めたいのか、リアナは今後どうなっていくのか、リアナの家族が彼女の才能に気づくことはあるのか……。まだまだ展開が読めず、引き続き目が離せない『無自覚な天才少女は気付かない』。リアナには、ぜひとも大逆転を果たして幸せになってほしい。
文=月乃雫