愛されていたことなんて忘れたほうが楽だから。累計14万部超!『一途ビッチちゃん』が描く痛みと救い
更新日:2024/9/18
「痛い」なんて、気づかないフリをしていればやり過ごせる。経験を重ね、多くの痛みを知るにつけ、私たちは痛みを避ける術を身に着ける。しかし当座の痛みはやり過ごせたとして、傷はどこかで疼いているのではないか。
『一途ビッチちゃん6』(色のん/KADOKAWA)では、そんな問いが突き付けられる。「一途ビッチちゃん」はWEBでツイッター発コミックで、大好きな先輩だけ愛する一途ビッチちゃん=歩を主人公とするラブストーリー。最新第6巻で14万部を突破(※電子書籍含む)した人気シリーズである。
瑞々しいラブコメである「一途ビッチちゃん」の世界にときおり影を落とすのが、歩に愛される先輩・悠生の家庭事情だ。情緒不安定気味な母親とソフトな支配性を垣間見せる父親。歩と共に生きるため悠生がその檻を壊していく戦いがこれまで描かれてきたが、その檻にとらわれている人物がもう一人いた。悠生の兄・遥太(ようた)である。
優等生気質の弟とは違ってやんちゃ気質の遥太は、父母に反発するなかで家族での居場所を失い、高校生の時に家出同然の形で家を飛び出ていた。現在は母親と和解し、ほどよい距離感で実家をサポートしているのだが、そんなある日、自分の写真だけが家族のアルバムからごっそり消えていることに気づいてしまう。
「ま、そりゃそうだよな!」と明るく割り切りつつ、内心では激しく動揺する遥太。いつもと様子が違う彼を案じるのが、職場の後輩・きっくーだ。体当たりで寄り添っていくきっくーの助けによって、痛みを自覚できるようになった遥太は、ふと、かつて母親から愛されていたこともあった、という記憶を思い出す。忘却していたのだ。「愛されていたことなんて、忘れてしまったほうが楽だから」。愛情と痛みの濁流の中、遥太が見つけ出す答えとは――。
そんな重めなストーリーと同時並走で、歩と悠生の恋愛模様は、絶好調にじれったくて甘酸っぱい。恋人同士になっても「名前で呼び合う」というイベントだけで一波乱。ふだんはクールな悠生の、やきもち焼きでヘタレな一面が垣間見えるのも見せ場の一つ(?)。何事も器用にこなしてきた青年が、不器用に恋愛と組み合っていく姿がまぶしい。
弱い自分。不器用な自分。愛情はときに、直視したくない自分の姿を浮かび上がらせる。その闘いの先で成長し、自分にも他人にも優しくなるのだということを、「一途ビッチちゃん」の物語は教えてくれる。
そして先日、色のんさんのSNSで、次巻をもって最終巻を迎えることが発表された。登場人物たちがどのような幸せを選び取るのか、愛情と成長の旅路を最後まで見守りたい。
文:タヌタヌ