森鴎外『高瀬舟』あらすじ紹介。安楽死は罪なのか? 弟の自殺を幇助し流罪になった男
更新日:2023/4/4
突然ですが、安楽死についてどう思いますか? 森鴎外の『高瀬舟』は安楽死に言及した内容で、短いながらも非常に考えさせられる小説です。この記事では、わかりやすい解説を交え、結末までのストーリーを紹介します。ぜひ手に取っていただいて、この難しいテーマに挑んでみてはいかがでしょうか。
『高瀬舟』の作品解説
高瀬舟とは、京都を流れる運河・高瀬川で、物資の運搬を担っていた舟であり、人目のない夜には罪人の護送にも利用されていました。
著者の森鴎外は東大医学部の出で、軍医のトップまで昇りつめたエリート。安楽死をテーマとした『高瀬舟』は、著者が人の命を預かる医者だからこそ執筆できた小説かもしれません。
『高瀬舟』の主な登場人物
喜助:弟殺しの罪で遠島の刑に処され、高瀬舟で護送されている。
弟:喜助の弟。病床で働けぬ身に罪の意識を感じ、自殺を図る。
羽田庄兵衛:高瀬舟で喜助を護送している役人。母親と妻、4人の子を養っており、貧窮している。
『高瀬舟』のあらすじ
江戸時代、京都で罪人が流罪になると「高瀬舟」に乗せられた。いつの頃であったか、これまで類のない珍しい罪人が高瀬舟に乗せられた。喜助という男で、弟殺しの罪を犯し、遠島の刑に処されたという。護送を命ぜられ、高瀬舟に一緒に乗り込んだ庄兵衛だったが、咎人とは思えなかった。
喜助は「シャバでは骨身を惜しまず働いても金は流れていくばかり。受刑者に与えられる200文がどれだけありがたいか」と言う。さらに喜助は、これを元手に新たに仕事を始めたいという。妻が実家から生活費を無心するほどに貧窮している庄兵衛は、金銭面での満足など感じたことはない。それがどうだ、喜助はこのわずかばかりの金に満足どころか希望すら見出している。庄兵衛は分相応の満足を知っている喜助に仏の智慧を感じた。そして、喜助に惹かれ始めていた庄兵衛は、弟殺しの成り行きを問わずにはいられなかった。
喜助は幼少時に両親を亡くし、病床の弟を養いながら働いていたが、そんな喜助に罪悪感を募らせていた弟は、剃刀で喉笛を切り裂き自殺を図る。だが死には至らず、さらに剃刀を喉笛の奥に押し込むもまだ死にきれない。
「突き刺さった剃刀を引き抜いてくれ」
そうしたら死ねるからと喜助に懇願する弟。死にきれず苦しむ弟の姿に覚悟を決めた喜助は、深く突き刺さった剃刀を引き抜いた……。
弟の願いを聞いた喜助は果たして人殺しなのかと疑念に駆られる庄兵衛は、奉行所が下した裁きなのだから喜助は罪人であると自分に言い聞かせる。しかし、腑に落ちない思いは最後まで庄兵衛の中に残り続けた。
<第51回に続く>