橘ケンチさんが選んだ1冊は?「最後、鈴さんの抱えていた想いがほろっとほどける。泣いてしまいました」
更新日:2023/3/14
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年4月号からの転載になります。
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、橘ケンチさん。
(取材・文=松井美緒 写真=TOWA)
「なんでこんな文章が書けるんでしょう。吉田修一さんの作家としての凄さを改めて感じました」
大変な読書家として知られる橘さんだが、『ミス・サンシャイン』は特別に強く印象に残る一冊だ。
「銀幕の大スターだった鈴さん、大学院生の一心をはじめ、登場人物がみんな生き生きとしています。作中には、実在の俳優さんの名前も出てくる。それも相まって、読んでいるうちに脳がバグりました。鈴さんの人生も彼女が出た映画も、本当にあったことなんじゃないかと。それくらい完成された世界観です」
鈴さんも一心も、そして吉田修一さんも長崎の出身だ。
「原爆の話も直接的に多くが語られるわけではないのに、読む者の胸に迫る。最後に、鈴さんが抱え続けてきた想いがほろっとほどける。思わず泣いてしまいました。これが本が持つ力なんだと思いましたね」
橘さんは、吉田さんのインタビュー記事にも目を通したそう。
「デビュー後、5年ほど文章の訓練をされたとか。やはり修業が必要なんですね。『パーマネント・ブルー』を書き上げたばかりの時期に『ミス・サンシャイン』を読んだので、余計にそう思いました」
『パーマネント・ブルー』は、2月に発売された橘さんのデビュー小説だ。きっかけは北方謙三さんだった。
「トークショーに呼んでいただいたときに『小説は書かないのか? 君の人生を書けばいいんだよ』とおっしゃって」
橘さんは、そのアドバイス通り主人公・賢太に自身の青春を重ねた。
「僕はごく普通のダンスが好きな若者でした。それが夢を追いかけ始めて、様々な葛藤を経験して。先の見えないトンネルの中を歩いているようでした。でもだからこそ楽しくもあった。地元横須賀や当時のダンスシーン、僕の経験したすべてがこの本の中にあります。その点で、僕にしか書けない小説にはなったかなと思っています」
中でも書き残したかったのは。
「風子さんと出会った、不思議な夏の一日です。風子さんは、鈴さんにも似た本当に素敵な方で。彼女と話すことで、悩みの中にあった僕は救われたし、勇気をもらいました」
早くも2作目の小説を、と期待する声も多い。
「北方さんからも『もっと嘘を、もっと闇を書け』とお言葉をいただきました。また新たな目標を持ってトライできればと思います」
ヘアメイク:水野明美 衣装協力:ニット 3万5200円(OVERSIZED KNIT/O.White) デニム 2万4200円 (#146 DENIM TROUSERS/Black)(フォーサムワン フラッグシップストアTEL03-5708-5838)(共に税込)
『パーマネント・ブルー』
橘 ケンチ 文藝春秋 1870円(税込) EXILE橘ケンチの小説家デビュー作。横須賀で育った相馬賢太は、大学時代にダンスに夢中になった。鉄平、大ちゃん、柊という仲間と奇跡的に巡り合い、ダンスチーム「PRIMAL IMPACT」を結成。地元横須賀から横浜、東京へと活躍の場を拡げていく。アメリカに住む幼馴染みの裕太、DJのMARINE、不思議な風子さんなど大切な人との出会いも経て、自分を見つめ葛藤し、夢に向けて走り続ける。自伝的青春小説!