『血の轍15』母は語り、息子は見つめる――読者の誰もが知りたかった「毒親」の過去がいま明かされる!
更新日:2024/2/8
※本記事にはマンガのネタバレが含まれます。
13歳の少年・静一と母親・静子のいびつな関係を描いていた『血の轍』(押見修造/小学館)。母に人生を狂わされ人を殺してしまった静一は、その母からも見捨てられて救護院に送致される。
しかしこの1巻から12巻までの静一の少年時代を描いた物語は序章にすぎなかった。
13巻から始まる本章も視点は変わらず静一だが、彼はすでに36歳となり工場で働いていた。誰とも打ち解けることなく、時折、隣に自分が殺したいとこの「シゲちゃん」がぼんやりと現れる。死んだときと同じ少年のままの姿のシゲちゃんと大人になった静一が並んだ姿はアンバランスで、静一の心が長い月日を経ても閉ざされたままだということがわかる。
そんな静一の父親が急死したことで彼と母親の静子の歪んだ母子関係を描いた物語が再び動き始める。
静一が約20年ぶりに会った静子は、精神を病み記憶も散り散りになっていたのだが、静一の視界の中では若く美しいままだった。しかし若い静子を見ながらページをめくっていると、急に静子の姿が白髪の老いた女性に切り替わることがある。
静一は、動揺し混乱している。今の母親を明確にとらえることができないのだ。
本作の大きな特徴のひとつは、主人公の静一の視点から少しもずれずに物語が進むことだ。つまり彼の目に映っていることが客観的な事実と等しいとは限らず、本章に入るとその大前提がいかに重要だったのか読者は痛感する。
最新の15巻では、謎の多かった静子の過去が、静子本人の口から語られる。その内容を知る前に15巻の表紙をよく見てほしい。静一の大きな瞳が表紙の中央にあり、その中に若き日の静子が映っている。つまり自分の過去を話しているのは静子だが、本作で描かれているのは、静一のフィルターを通した「若き日の静子の情景」なのだ。
静子が話している最中、不自然なほど静一の瞳が何度もクローズアップされるたび、読者はその事実に引き戻される。
静子はいわゆる機能不全家庭で育ったようだ。両親は長女の静子を日常的に殴っていたが病弱な次女、つまり静子の妹のことを溺愛していた。人生の早い段階から絶望を知っていた静子だが、あることをきっかけに俳優になりたいという夢を抱き故郷を出て上京する。しかしその夢は叶うことなく、東京で知り合った男性にプロポーズされる。
私は、
受け入れて、
あきらめた。
男性の実家のある町で専業主婦となり、子どもを産んでもさみしさが消えない静子だったが、周囲から見るとそれは「幸せ」だったのだろう。静子の妹・悦子が若くして病死したとき、実母は言う。
おまえが悦子の分の幸せを、みんな吸い取った。
たしかに静子は「幸せ」だったのかもしれない。彼女は自分が産んだ静一への愛情を深めていた。しかし、息子に対する愛のかたちは、どんどんといびつなものになっていく。
そして赤ん坊の静一を見つめながら、静子は思う。
私はこの子が、とてもかわいい。
でも……どうしてかな。
遠いの。
やがて幼い静一を連れた静子は、本作でもっとも重要な、ある場所にたどり着く。
13歳だった静一が見たこと、経験したこと、母親の静子に壊された心、失った初恋、そして犯した罪。
20年の時を経て今度は静一の瞳の中にいる静子が、そのときのことを話し始めるときが来たのだ。静一のフィルターを通してスケッチのようなタッチで静子の過去はうごめく。
12巻までの長い序章は、すべてこのときのためにあったのかもしれない。
どうか次の16巻が発売される前に、1巻から15巻までを振り返ってほしい。
そして読者も静一のように、自分だけのフィルターを通して想像してほしい。
序章で、静子は何を思ってあんなにも静一を束縛したのか。
静一が見てきたものは真実だったのか。それとも静子に操られていたのか。
今年5月ごろに発売される16巻では、その答え合わせが始まる。
文=若林理央
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