130万再生楽曲が人気作家の手で小説に。小中学生読者による「子ども宣伝会議」で秀逸なキャッチコピーが誕生!《イベントレポート》
公開日:2023/3/15
2021年夏、“みんなで作る「キミノウタ」キャンペーン”として、ポプラ社の児童書レーベル・キミノベルのWebページで子どもたちから歌詞を募集し、バーチャルシンガー・花譜さんが歌った楽曲「それを世界と言うんだね」が発売された。この楽曲をモチーフにし、「花鳥風月」シリーズや『死にたがりの君に贈る物語』(ポプラ社)などで知られる小説家・綾崎隼さんが書いた小説『それを世界と言うんだね』(ポプラ社)の、一般書籍版と児童書(キミノベル)版が3月15日に同時刊行される。
本作は、童話の登場人物たちが暮らすお城を舞台にしたファンタジー。ある日、自分が誰なのかまったくわからないままお城のそばで目を覚ました主人公は、“王子”と呼ばれる少年に連れられ城内へ。物語の世界で不幸になった者を救う、“物語管理官”として活動することになる。
綾崎さんは、楽曲の中でも特に〈もしも私が主人公なら/笑顔にできる小説を書く〉〈もしも僕が主人公なら/ハッピーエンドにする力で/悪役だと罵られても/好きなあの子だけを守りたい〉という歌詞にインスピレーションを受けたとのこと。そんな綾崎さんらしく美しい、そして“誰かのために”という優しさが詰まった物語だ。
子どもたちから歌詞を募集し、完成した楽曲をモチーフに誕生した小説だからこそ、このたびポプラ社では、その子どもたちと本作を届けるため「子ども宣伝会議」をオンラインで開催。本作を読んだ子どもコピーライター12名が、宣伝コピーをプレゼンした。どのコピーもそれぞれの作品への想いが詰まった力作ばかり。最後にはシークレットゲストとして、作者の綾崎さんも登場し、大いに盛り上がったイベントの様子をお届けする。
(取材・文=原智香)
力作揃いのキャッチコピー
まずはお互いに自己紹介した上で、本作を読んだ感想やキャッチコピーの発表をすることに。トップバッターのおりおさん(大分・中1)は、「主人公は“誰かのために”という気持ちを持っていて、心がとってもきれい。私も主人公みたいになりたいと思いました」と感想を述べた上で、「最後はみんな笑顔にしたいから――。」というコピーを発表。「読み終えたとき、世界中の童話をひっくり返して読みあさりたくなった」という想花さん(愛知・小6)は「1人の少女が愛した、主人公の物語」などふたつを考えていた。さらに自分で物語を作ったりもしているという桜八重さん(岐阜・小5)が「物語を終えたものはそのすべてが幸せになれる。それを世界と言うんだね」と伝えると、「歌の歌詞みたいでウルウルしますね」と周囲の反応も。
友(ゆう)さん(北海道・中2)は「2人の主人公の秘密の物語」など3つのキャッチコピーを披露。その上で「これは愛のお話かなと思った。こんなにおもしろい物語を書いてくださってありがとうございます!」と作者へのメッセージも伝えた。続くまかろにさん(鳥取・中2)は、「膨大な量の知識に裏打ちされた内容で、児童文庫のイメージが覆るほど感動した」としながら「あなたの人生(ものがたり)に幸せを」と細部にもこだわったコピーを発表した。前半ラストを飾ったのが、「王子と主人公のタッグが好き」という冬李(ふゆり)さん(新潟・中1)。「悲しい世界(セカイ)に希望のラストを」と読み上げると、参加者から「おぉ~」という声が漏れた。
続いて後半のトップバッターはニップさん(茨城・小6)。キャッチコピーは「自分が今、この世界に生きている意味とは」。最後の一文が特に好きというニップさんの感想には、参加者からも共感が集まった。続いて同じくキミノベルの『かがみの孤城』(辻村深月)にハマっているというりんりんさん(千葉県・小5)は「真実を求める少年・少女たち」などふたつを披露。「どんな物語なのか気になって、読みたくなりますね」との反応があった。「後半のストーリーが特に印象的だった」というたきなさん(神奈川・小6)のキャッチコピーは、「ここは世界の物語を助ける場所。」。琴音さん(愛知・小5)は「伏線にまったく気が付かなかったので、全て知ったうえでもう一度読み返したくなった」と物語の魅力を伝えた上で、「時空を超える深い愛」と発表した。自身も小説を書いているというわらびもち(大阪・小5)さんは、「「愛」の童話の大切な記憶(メモリー)」と、しっかりとまとまったキャッチコピーを発表した。ラストになったミユさん(東京・小5)は、何度読んでも飽きない作品であるとしつつ、「自分の想像力を手伝ってくれるすてきな言葉の物語」など本日最多の4つのキャッチコピーを考えていた。
会議の総評として10年以上ポプラ社で宣伝を担当している山科博司さんから「本当に素晴らしいプレゼンでした。僕も本作を何度も読んでいますが、皆さんのキャッチコピーを聞いて、新しい気づき・発見がたくさんあり、もう一度読み直してみようと思いました」と子どもコピーライターたちの作品への読み込みの深さに、改めて敬服する声が伝えられた。
作者登場! 感極まる子どもコピーライターたち
最後にシークレットゲストとして、作者である綾崎さんが登場。子どもコピーライターからは驚きのあまり、口を覆って声にならない悲鳴をあげるなど画面越しながら大きなリアクションが。特に想花さんが「作家さんに会えて、死にそうになっているんですけど……」と震える声で緊張を伝えると、綾崎さんは「僕もそうです。読者の方に会う機会はなかなかないので、すごく緊張しています」と答えて場を和ませてくれた。実は会議の様子もずっと見ていたという綾崎さん。「細かいところまでしっかり読んでくださっていて嬉しかったです。担当編集者とずっと『嬉しいですね』とLINEをしながら観ていました」と話した。
質問コーナーが始まった途端に、子どもコピーライターからはたくさんの挙手が。自身も小説を書いているという琴音さんから「文章を書く上でのコツは?」と聞かれると、綾崎さんは「小説家の友達としゃべっていても、書き方はみんなバラバラなんです。僕は今日と明日では出てくる言葉が違うと思っているので、まず書いて、そのあと20回30回と読み直しています。今作も20~30回は推敲しました。最後に音読すると、読みやすい文字数になっているか確かめられるのでおすすめです」と教えてくれた。続いてまかろにさんは、「児童文庫で執筆するにあたって、(これまでと)何か違いはありましたか?」と質問。「最初は漢字や熟語など、わかりやすいようにした方がいいのかなと思っていました。でも編集の方から『特に気にしなくていいです』と言われて。僕自身も知っている言葉だけで書いてある本を読むよりも、知らない言葉に出会って、覚えていってもらった方が素敵じゃないかと思うようになって。文章はそんなに変えずにいきました」と、小説家になる前は進学塾の塾講師をしていて、国語の教員免許も持っているという綾崎さんらしい回答がかえってきた。最後にゆうなさんから好きな本を聞かれると、「皆さんくらいの年齢の時に読んで心に残っているのは『はなはなみんみ物語』(わたりむつこ/リブリオ出版)。3冊シリーズなのですが、特に3巻の『よみがえる魔法の物語』が好きです。あとは『モモ』(ミヒャエル・エンデ:作・大島かおり訳/岩波書店)ですね。こんなにおもしろい本があるのかと感動しました」と教えてくれた。
まだまだ熱狂さめやらぬ中、集合写真を撮って会は終了。キミノベルのWebページ「キミノマチ」での再会を約束しながら子どもコピーライターは解散した。コロナ禍であるからこそ、日本全国津々浦々から読書好きが集まることができたとも言える今回のオンライン会議。地方の読書好き少女として幼少期を過ごした筆者にとっては羨ましくも映るほど濃密な時間だった。ちなみに今日のキャッチコピーは書店のポップやパネル、SNSで、本作の宣伝に使用されるとのこと。作品と併せてぜひチェックを!