伝説のロックコミック『ファイヤー!』が23年ぶりに復刊!“女手塚”水野英子が描く60年代アメリカの青春
公開日:2023/3/10
1955年に『少女クラブ』にて15歳でデビューし、“女手塚”とも呼ばれる少女漫画の旗手・水野英子氏は、トキワ荘出身唯一の女性漫画家としても知られている。
水野氏の代表作の一つである『ファイヤー!』が、先日およそ23年ぶりに復刻版として出版された。当作品は、1969年~71年にかけて雑誌『週刊セブンティーン』で連載され、1970年に小学館漫画賞を受賞。また2010年には『ファイヤー!』を含む水野氏の全作品が日本漫画家協会の文部科学大臣賞を受賞するなど、時代が変わっても高い評価を受けてきた。
舞台は1960年代のアメリカ。当時連載されていた時期と同時代の物語である。主人公は、貧しいが正直に働き、母とふたりで暮らす少年アロンだ。
復活祭で街がざわめく中、母親のために新しい帽子を買ってやろうと考えるアロン。しかし、突然現れたファイヤー・ウルフという男により、彼の人生は大きく変わってしまう。仲間を引き連れながらバイクで走ってきたファイヤーは、アロンの前で帽子屋の窓を割り、商品である帽子を無理やりアロンに押し付ける。罪をなすりつけられてしまったアロンは、警察に捕まり、犯罪者として感化院へ送られてしまう。
失意の中、感化院でファイヤーに再会したアロンは、最初こそ憎しみの眼差しで彼を見ていたものの、彼が奏でる音楽に触れた瞬間に心を奪われてしまう。ファイヤーは、アロンや他の少年と同様に感化院に収容されていたが、同時に指導役も務めていて、周囲からは大変に好かれ信頼されていた。しかし、とあることが引き金となり、命を落としてしまう。
ファイヤーは最後に、アロンに自分のギターを託す。アロンはそのギターを胸に、ファイヤーの心を宿すのだった。アロンの人生は、ファイヤーとの出会いにより一変した。音楽の才能を持っていたアロンは、ファイヤーのように生き、ファイヤーのように歌おうと決める。
感化院を出てから、アロンはアルバイトをしながら音楽活動を始める。この物語の語り手であり、後にアロンが組むバンド・ファイヤーのギタリストのジョンやドラムのネロ、オルガニストのエンジェル、ベーシストのリフなど、個性豊かな登場人物たちがアロンの音楽生活を彩る。
ある日風邪をひいたジョンの代役でステージに立ったアロンは、亡きファイヤー・ウルフのために歌い上げる。その歌声は、会場にいる人たちの心を一瞬で奪い、そして彼は激動の人生へと足を踏み入れていくのであった。
バンドグループ・ファイヤーが少しずつ名声を得ていく浮き足立った時代の空気。ページをめくるごとに、知る余地もない当時の匂いが立ち込めてくるようだ。どうしようもなく熱く、痛々しく、目が離せない彼らの青春。音楽も友情も恋も生き様も全て捨てられず、もがきながら生きていくアロンの姿が、読み手の心も大きく揺さぶり削っていくような、そんな強烈な作品だ。
文=園田もなか