北村匠海がSUPER BEAVER・渋谷龍太を撮影──「渋谷さんは『偽ること』を、自分自身に対して許していない感じがある」クリエーションを共にした2人の対談
更新日:2023/3/10
「グルーヴを作ろう」「一体感を作ろう」とすると、本筋からズレていく
──『吹けば飛ぶよな男だが』には、小説が収録されています。小説の執筆は、編集者からの提案があったのでしょうか。それとも自分から?
渋谷 提案もしていただきましたが、自分でも書いてみたいとは思っていました。
──小説を書かれるのは初めてですか?
渋谷 小冊子で、記念日を題材にしたショートショートを書かせていただいたり、ファンクラブでもお題に添って物語を書くということはやっていたので、フィクションを書くこと自体にはちょこちょこ手を出していましたが、ワンシチュエーションで展開していくものが多かったんです。時系列を踏まえ、複数のシチュエーションでフィクションを書くということは、今回が初めてでした。執筆中は、難しさもおもしろさも、どちらも感じられましたね。でも、編集者というプロフェッショナルと仕事をさせていただいたので、きちんとアドバイスももらえましたし、「なにがよくて、なにがよくないのか」という点を自分で理解しながら書くことができました。
──今回は書籍の企画ですが、おふたりとも、読書はされますか?
渋谷 僕は本屋さんに行ったら、本を6冊買うことにしてるんですよ。5冊は知っている人の本、1冊は知らない人の本。あまり冒険的じゃないんです(笑)。知っている人の本を読みたいけれど、1冊は出会いがあるといいなという構成ですね。好きな作家さんは、浅田次郎さん、花村萬月さん、宮本輝さんと、最近は佐藤正午さんが好きです。なかでも浅田次郎さんは、ユーモアと人間味があって好きです。私生活でもそうですが、「その人がその人たるゆえん」のようなものがわかりやすいほうが好きなので、そういうところに惹かれるのかもしれません。
北村 僕は365日、台本の活字を読んで生きているので……(笑)。本やマンガも、もちろんたくさん読みます。本は、ジャケ買いすることが多いですね。本を読んだり、ものを書いたりするのは、新幹線や飛行機、車の中、すべて移動中です。写真集も好きでよく見ています。僕、映画なら、実はドキュメンタリー映画が一番好きなんですよ。だから、渋谷さんの自伝的な小説を、よりおもしろく読めたんじゃないかと思います。
僕は常に、ドキュメンタリーを目指していて。人によっては、「芝居だから泣けなくて当然だ」と言う人もいますよね。ただ僕は、いかにドキュメンタリーの涙を流せるかということを考えているので、リアリティのあるものがおもしろく感じられるんです。さっき『都会のラクダ』を「映画みたいだ」と言ったのは、まさしくそういう意味でした。台本を覚えるときも、気持ちは絶対に入れません。こちらが役を作りすぎると、現場で入り込むことができませんから。たとえば、相手が「ありがとう」と言うシーンなら、その「ありがとう」を聞かないと、こちらの反応は作れないんです。その空間の雰囲気や、相手との距離感で変わってきますから。ドキュメンタリーを追い求めて芝居を突き詰めていくと、そうなっていくと思います。
──相手との関係性は、ライブでの演奏とスタジオでの演奏というシチュエーションでも影響がありますか?
渋谷 僕、スタジオ練習やリハーサルって、すごく苦手で……ほとんどやらないんです。よく「練習でできないことを本番でできるわけがない」って言いますが、そんなことないと思う(笑)。やっていることが特殊だからかもしれませんが、本番じゃなきゃできないこともありますよ。本番前のリハーサルも、PAさんが音の調節をしたり、照明さんが照明の位置を調節したりするために行きますが、行かなくていいなら行きたくない。僕、メインボーカルだし、ギターも弾かず、メンバーの音楽に乗っかっているだけで、メンバーとのグルーヴってすごく薄いんですよ。だからこそ、グルーヴしすぎて馴れ合わないように、どこかメンバーの音を聴いてドキドキできるように、ある程度の距離を取るんです。メンバーとも、その場でしか生まれないものを感じたいから。ただ、そういうふうに言っていますが「やらないならできなきゃダメ」と思っているので、練習はいっぱいします!(笑)
要するに僕は、「一体感を作ろうとする」のが、あんまり好きじゃないんでしょうね。メンバーもそうだし、見に来てくれる人もそうですが、「グルーヴを作ろう」「一体感を作ろう」とすると、本筋からズレていく。個人を大切にした上で、偶然、同じ方向を向いちゃったから生まれる偶発的なグルーヴが気持ちいいのであって、それを「作ろう!」って思っちゃうと、かなりブレてきますよね。
北村 渋谷さんといて心地いい理由がわかった気がします。僕も、結果を先にもとめてなにかを作るのが、すごく嫌いなんです。僕も、ものを作るひとりとして、常に偶発的なものを追い求めているんです。もちろん、ひとりでは舵を取りきれないところもありますから、コミットすべきところはコミットしたいとは思いますが……「お金を稼ぎたいから仕事をする」ではなく、「自分たちが好きで作ってきたものにお金がついてくる」にできれば一番いいし、エンタメで仕事をするということは、そういうことだとも思う。だから、渋谷さんの話にはすごく納得しました。自分たちのレコーディングでも、けっきょく一発録りが一番よかったりするんですよ。