乃木坂46鈴木絢音「素直な自分の気持ちがずっと言えなかった」。辞書を作る人々との対談を通して見つけた「状況に流されない心」
公開日:2023/3/15
乃木坂46の鈴木絢音さんの書籍『言葉の海をさまよう』(幻冬舎)が3月7日に発売された。本作は辞書が好きだという鈴木さんが、辞書作りに携わる人々と対談してきた「小説幻冬」の連載を1冊にまとめたものだ。
辞書の編纂者、編集者、校正者、印刷会社社員、デザイナーなどの仕事内容や、仕事にかける想いを鈴木さんが丁寧な取材で聞きだしており、ファンはもちろん、乃木坂46のことをよく知らない人でも楽しめる作品になっている。
本記事では、鈴木さんにインタビューを実施。グループ唯一の先輩だった秋元真夏さんの卒業を見送った現在の心境や、乃木坂46として活動していた10年間の想い。そして辞書を作る人々との出会いを通した心境の変化などを伺った。
(取材・文=金沢俊吾 撮影=金澤正平)
グループでのポジションが気にならなくなった
――乃木坂46から秋元真夏さんが卒業されて、鈴木さんが最長在籍メンバーとなりました。現在はどんな心境か教えてください。
鈴木:私は年上の人に甘えることが好きな人間なんです。1期生の先輩、最後は特に真夏さんにおんぶに抱っこでここまで連れてきてもらったと、先輩たちが卒業して痛感しました。
――グループ唯一の1期生と2期生の2人として、秋元さんとより親密になられたそうですね。秋元さんは写真集に収録された対談のなかで「絢音にしか話せないことがある」と仰っていました。
鈴木:真夏さんはいつも楽屋で隣同士でずっとおしゃべりさせていただきました。だから本当に寂しさはあるのですが……気づいたら3期生、4期生の後輩がすごく頼もしくなっていて、今度はちょっと後輩に頼っちゃおうかなという気持ちもありつつ(笑)。でも3期生に甘えすぎず、私も先輩としてやれることを最後まで精いっぱいやっていきたいと思っています。
――鈴木さんは「アンダーの3列目だった頃はかなり腐っていた」と話されていました。その心境からはどうやって抜け出したのでしょうか?
鈴木:あの頃はお仕事も本当に少なくて、やっぱりつらかったですね。そこから私の個性をたくさんの方が見つけてくださって、お仕事につながる機会が増えたんです。それによって、グループでのポジションがあまり気にならなくなってきたように思います。
なぜこの仕事をするのか?
――『言葉の海をさまよう』は、まさに言葉を大切にする鈴木さんの個性が活きた著作になったと思います。辞書を作る方々との対談を通して、何か感じたことはありますか?
鈴木:皆さん、「言葉のオタク」と表現したくなるほど、仕事に対する凄まじい熱意をもってお話ししてくださったんです。そこで「私はこの人たちには敵わないかもしれない」と思ってしまうことがありました。
――辞書を作っている方々と鈴木さんの仕事に対する熱量の差、みたいなことでしょうか?
鈴木:はい。皆さん言葉が大好きで言葉のお仕事をされていらっしゃる。私に置き換えたら、乃木坂46がすごく好きで活動をしてると。本当に乃木坂46が大好きで10年間続けてきたけれど、仕事に対する熱意は辞書を作る皆さんには敵わなかったです(笑)。
――辞書を作る方々との対談のなかで「仕事で一番うれしいのはどういうときですか?」「なぜこの仕事に就いたんですか?」と皆さんに聞かれていたのがとても印象的でした。これは鈴木さんが自問自答していることなのかな、とも思ったのですが。
鈴木:そうですね。ずっと考えているような気がします。10年もグループにいると「流されちゃってるのかもしれないな」と思うことが増えてしまっているように思えたんです。
――自分の意志が介在していないまま仕事が進んでしまう、みたいな感覚でしょうか。
鈴木:はい。今の状況に甘えてしまっていると思うことはよくあります。日ごろから考えているから、今回の取材でそういった質問が出てきたのだと思います。
――そうした熱意のある方々との対談を通して、何かご自身の活動に影響を受けたことはありますか?
鈴木:それはたくさんあります! 今は素直に自分の思ったことを言葉にできるようになりました。それまでは、ブログやライブのMCで「間違った解釈がされないような正しい言葉選びをしなきゃ」とか、そういうことばっかりを気にしていたんです。そのせいで、素直な自分の気持ちが言えていなかったのかな、とも思っていました。
――ブログをうまく書けないのが辞書に興味を持ったきっかけだと書かれていました。
鈴木:そうなんです。今は「間違った言葉遣いをしてしまっても、もしかしたら次の時代には正しい言葉遣いとして辞書に載るかもしれない」と思えるようになりました。そうしたら、なんだか気楽になってきたんです。
――本作にも「ゴキブリ」は「ごきかぶり」という言葉が間違って広まって定着した、というエピソードが登場しましたよね。
鈴木:言葉にはいろいろな可能性があるから、考えすぎず自分が思ったままを言葉にしようと思えたんです。どう受け取るかはその人次第、という風に発想を切り替えることができました。それもすべて、辞書に出会ったからできたことだと思っています。
「まじ」と「やばい」は禁止
――今日お話を伺っていても、鈴木さんは言葉遣いがとても丁寧だと感じました。本書のなかで「まじ」「やばい」を使うとお母様から怒られるというエピソードがありましたが、お母様の教育が、鈴木さんの言葉に対する真摯さを培ったのではないでしょうか?
鈴木:それはあるかもしれません。母は、私にたくさん本を読む人になってほしかったみたいなんです。毎週図書館に連れていってくれたり、本屋さんに行ったら必ず1冊買ってくれたり。
――素敵なお母様ですね。今はもう言葉遣いを怒られることはないですか?
鈴木:いえ、最近も言われますよ。最近も「お父さん、うざい」と言ったら「そんなこと言わないの」と指摘されて。それで私、「うざい」って言葉を言い換えたんですよ。
――「お父さん、うざい」をどのように言い換えたのか気になります。
鈴木:「無神経なんですけれど」(笑)。
――それは……かえって傷つくかもしれないですね(笑)。
鈴木:でも、何も言わずに引っ込めるよりも、ちゃんと言葉にした方がいいと思うんです。自分の中に閉じ込めてしまったら、いつか爆発してしまうので(笑)。
地球のことをすべて知りたい
――お忙しいなか、たくさん本を読み勉強されていますが、そのモチベーションはどこから来るのでしょうか?
鈴木:私、地球のことをすべて知りたい欲があるんです。こんなこと言っていいのかわからないですけど、新しいことを知るたびに、一歩一歩、神に近づいてるような感覚があるんですよね。
――おお……神に近づくように、どんなことでも知りたいという。
鈴木:そうですね。もうどんなことでも知りたいです。
――最後に、今後どのような活動をしていきたいか、イメージがあれば教えてください。
鈴木:乃木坂46に入って、本当に出会いに恵まれた人生だったなと思うんです。今回『言葉の海をさまよう』が出版できたのも、出会った人々のおかげです。今後も、これまで出会った人とのご縁を大切に、またいつかご一緒できるような活動をしていきたいなと思っています。
――これからのご活躍も楽しみにしております。ぜひまた本も作ってください。
鈴木:ありがとうございます。本は自信がないんですけど……がんばります!