ReoNaが初書籍「Pilgrim」で赤裸々にさらけ出した、「絶望系」である自分と、その先の未来
公開日:2023/3/17
『ソードアート・オンライン』シリーズ、『シャドーハウス』『月姫 -A piece of blue glass moon-』『アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】』など、数多くのアニメやゲームの主題歌を担当してきた絶望系アニソンシンガー・ReoNa。3月6日には初の日本武道館ワンマンライブを開催、その翌々日には2ndフルアルバム『HUMAN』のリリースと、活躍を続けるReoNaにとって初となるアーティストブック『Pilgrim』(KADOKAWA)が発売された。故郷・奄美大島での撮り下ろしフォトや関係者の対談も含まれたファン必見の一冊だが、中でも注目は自身の過去について語った3万字におよぶインタビューだ。ここでReoNaが初めて語った自身の過去、改めてReoNaの抱える「絶望と今」に耳を傾けてみたい。
取材・文=加東岳史
■逃げ出したからこそ、今の場所を見つけられた
――今回の初のアーティストブック『Pilgrim』の中で、今まで語ってこなかった過去のことをかなり語られていますよね。
ReoNa:はい、私が覚えていることは何も隠さずに話そうと思って、インタビューに挑みました。
――家族の話とそこから生まれる確執や、コスプレイヤーだった事も語っていますよね。
ReoNa:コスプレイヤーである事は自分から語っていなかったんですが、別に隠しているというつもりもなくて、ネットで検索すれば写真はすぐ出てきますし。アニメが好きだった自分自身の足跡でもあるので、知らせようともしなかった、というのが本音です。
――読ませて頂いて印象的だったのが「最近負けたくないから、逃げてきたんだっていうのに気付いた」っていう部分でした。ReoNaさんのキャッチコピーのひとつとして「逃げて逢おうね」がありますが。逃げてきた理由が「負けたくないから」というのが凄く納得してしまったというか。
ReoNa:もともとアニメだったりお歌だったりが、私の逃げ込んだ先だったので、向き合えなかったものから逃げ出したからこそ、今のこの場所を私は見つけられたっていう感覚です。本当にたまたまこうして立っていられる場所に出会えた感覚なんです。だからこそ、この場所で生きてたいなと凄く思います。
――そんな今のReoNaさんから見た、10年くらい前の少女だったReoNaってどんな子でしたか?
ReoNa:「この子、死んじゃうんじゃないか?」と思うでしょうね。外から見てて危うげだった自覚はあります。自分というものがすごく希薄だったんです。色んな人に嘘をつかれたり、傷つけられたり裏切られたりとかしても、結局はまた人のことを無条件に信じてしまう人間だったので、当時出会ったのが今の事務所の社長じゃなくて別の大人だったら、たぶんまったく違う人生だったと思います。
――あまり自分のことを大事にしなかった?
ReoNa:大事にしなかったと思います。自分の事はあまり好きじゃなかったので。でも、誰にも肯定してもらえないなら、自分で自分を肯定しないと本当に何もなくなっちゃうなぁとは思ってました。
――自分で自分を肯定する、ですか。
ReoNa:なので、まずは見た目からコンプレックスをなくしにいこうとしたりとか、人からいいねって言ってもらえたものを伸ばそうと努力したりしました。それがコスプレだったり、音楽だったりなんですけど、やっぱり思い返しても、自分が好きって言い切れる感じではなかったですね。
――ReoNaさんの根幹にある「絶望」が垣間見える内容ですよね。
ReoNa:自分の中で「絶望」に対する物差しができるくらいには、色んな経験をしてきたんじゃないかなと思います。
■たとえ誰かを利用しても、自分の心と今を守ることだけはやめないで欲しい
――ReoNaさんが『Pilgrim』の中でおっしゃっていた「絶望はただそこにあるもの」っていう言葉。それを知ってるだけで、楽曲を聴く印象が変わってくると思うんです。
ReoNa:変わるかもしれないです。本当にどこにいても、どの立場の人でも、絶望ってきっと避けて通れないものだという意識はすごくあります。
――そんな思春期を通ってきたReoNaさんも、大人の女性になりました。今思春期で何かしらに絶望している子たちに、何かアドバイスをしてくれ、と言ったら何と答えますか?
ReoNa:そうですね……活動をしてる上で、本当に誰にも言えない悩みを手紙にして送ってくれる子や、SNSのメッセージで送ってくれる子もいるんです。そういう人達の想いに触れると、自分の10代を思い出して、ぐっと心が引っ張られるんですけど……たぶん当時私はSNSとかで書き込めてたので、そこが逃げ場になっていたんです。でも今ってSNSすら公のものになってるから、本当の意味で吐き出せる場所、本当の意味で独り言を言える場所っが少なくなってると思うんです。
――確かにそうですね、SNSは公然と見られる場所、という感じになっていると思います。
ReoNa:本当に自分の心を逃がせる場所ってどこなんだろうと思った時に、やっぱり好きなものに触れている時間は誰にも変わらずあると思っていて。私のライブは誰かの逃げ場であって欲しいと思うし、音楽を聴く時間は自分の心を守れる場所であって欲しいです。誰にも言えない言葉を、手紙として私に送ることで、あなたの心が逃げられるのであれば是非そうして欲しいし、たとえ誰かを利用しても、自分の心と今を守ることだけはやめないで欲しいと思います。
――ReoNaさんがそう思えるようになったのはアーティストになったからだし、そこへの軌跡が浮き彫りになる一冊になっていますよね。160ページの本の中で、最後に「今、幸せですか?」と問いかけられているのが素晴らしいと思いましたし、その返答に感動しました。
ReoNa:「私は今何を歌いたいんだろう?」の前に、「私ってすごくハッピーな希望を歌えるだろうか」って考えたこともあるんです、でもやっぱりそれはちょっと嘘になるな、と思って。負けてズタボロになって傷ついてる人間に「頑張れ! 負けるな!」って、私はやっぱり言えない。
――言えないですか。
ReoNa:言えないです。そう言いたい人もいるし、そう言われたい人ももちろんいると思うんです。本当にボロボロで負けそうで悔しくて仕方がない時に、もう一歩頑張れば未来が開ける! と言われたい人もきっといるのはわかってるんですけど、でも私はそういう傷ついた人の背中も押したくないし、手も引きたくないなって思います。
――それはReoNaさんが選んだ道、ということですね、自分がやられたら嫌なことはやらないというか。
ReoNa:そうですね、自分がやられたら嫌だと思います。「頑張れ!」って言われても、「いや、私もう頑張ってるよ! 頑張ってるんだよ!」って言いたくなっちゃう。
■「あなたの事が必要だよ」と思えば、神崎エルザは降りてきてくれると思っている
――この本は、愛が詰まった1冊だと思いました。寄稿してくれた方々の言葉もそうだし、写真1枚とってもそうだし。
ReoNa:元々アニメ・ゲームが好きで生きてきた私にとって、ずっと追いかけて見上げている方々だし、そんな方々に寄稿していただけたのは本当に嬉しいです。変な話、あまりReoNaの楽曲を知らなかったとしても、奄美大島の写真が入ってることとか、松岡禎丞さんと島﨑信長さんが『ソードアート・オンライン』について語るインタビューが入ってるんだ、とか、TYPE-MOONの芳賀敬太さんと作曲家の深澤秀行さんのインタビューが入ってる、とか、時雨沢恵一先生の書き下ろし小説を読みたいとか……この本との、色々な出会いの入り口があると思うんですけど、その中でReoNaの音楽に帰ってきてくださるというか、もう一度出会い直していただけたらいいな、と思います。
――ReoNaさんの事をもし知らないとしても、絶望を感じていた女の子の備忘録としても面白かったです。ファンの知りたかった過去を1歩どころか2.5歩くらい踏み込んで話しているのが凄いと思いました。
ReoNa:踏みとどまろうっていう意識は一切無かったです。元々、私自身が「どこまで言っていいんだろう?」と考えちゃうタイプだからこそ、思い切りアクセルを踏み込みました。
――ぐっと来たのが、ご自身が『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の劇中で歌唱を担当したキャラクターである神崎エルザに対して「またあなたの歌がうたいたいです」っていう言葉でした。
ReoNa:エルザは私の中でひとりの人間として人格を持ってしまってるので。ある意味イマジナリーフレンドですね。エルザの霊的なものはいると信じているんです。私が心から「エルザ、あなたの事が必要だよ」って思った時に、降りてきてくれるんじゃないかなと思います。
――ファンはとても嬉しい言葉だと思います。改めて全ての言葉も写真も見逃さないように読んでもらいたいですね。
ReoNa:本当に一冊の本として、私が触れてきたモノの中でも濃く、幅広い1冊ができあがったと思ってます。アニメ、作品、曲など、色々な側面からReoNaに出会ってくださった方がいると思いますし、ひょっとしたらまだ出会えていない“あなた”もいると思うんですが、少しでも興味が向いてくれたら、手に取っていただけたらいいなと思います。あなたと私、本の上でも一対一で向き合えれば嬉しいです。
▼プロフィール
ReoNa(れおな)
2018 年 4 月クールに放送された TV アニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の劇中歌を歌う劇中アーティスト=神崎エルザの歌唱を担当し、「神崎エルザ starring ReoNa」として、ミニアルバム『ELZA』をリリース。ソロシンガーとしては、1stシングル『SWEET HURT』を2018年8月にリリース、2020年10月には、1stフルアルバム『unknown』を発表。2023年3月1日に自身初のアーティストブック『Pilgrim』を発売、同3月6日には初の武道館ワンマンライブを開催。5月からは、全国7公演をめぐるコンサートツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”」を開催する。