「わが子がかわいいと思えない」10人に1人以上がなる“産後うつ”。「助けて」と言う勇気を持つことが回復への第一歩

出産・子育て

更新日:2023/6/1

マンガでわかる! 産後うつ? と思ったら読む本
マンガでわかる! 産後うつ? と思ったら読む本』(細川モモ・立花良之:監修、あらいぴろよ:イラスト/主婦の友社)

「まさか私が…」「あんなに明るいあの人が…」発症することもあるという産後うつ。心身ともに疲弊すると誰でもなる可能性がある病気で、“心のかぜ”とも呼ばれているとか。『マンガでわかる! 産後うつ? と思ったら読む本』(細川モモ・立花良之:監修、あらいぴろよ:イラスト/主婦の友社)は、産後うつの原因や症状、抜け出す方法などを網羅して紹介すたらいる1冊。産後うつとはどんな状態で、その状態に気づいたらどのような対応をするのが適切なのでしょうか。

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10人に1人以上は産後うつに! 「なんだかおかしい」と思ったら…

マンガでわかる! 産後うつ? と思ったら読む本 P6

 本書には、予防医療・栄養コンサルタントの細川モモさん、産後うつ研究の第一人者である医師・立花良之さんのダブル監修により、さまざまなタイプの産後うつの経過が、あらいぴろよさんのマンガでわかりやすく描かれています。

 このエピソードに登場するみさきさん(33歳)は、いわゆる完璧主義の女性。入院や育児用品を完璧に準備して出産を待ち望んでいましたが、難産のため、急きょ帝王切開に切り変わり、あまりの急展開に心がついていかないまま出産。産後はおなかの傷が痛くて育児がままならず、“もっとちゃんと考えておくべきだった”と後悔しながらも、“ママだから頑張らないと!”という責任感に駆られて休みなしの育児を続け、次第に体はボロボロに…。そんなある日、突然体が重く感じ、家事も育児もできなくなってしまったようです。

マンガでわかる! 産後うつ? と思ったら読む本 P25

 ただでさえ幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが急激に減り、睡眠不足などで体調を崩しやすい産後。産後うつは、“内向的な人のほうが産後うつになりやすい”というイメージがありますが、じつは性格はあまり関係ないようです。「赤ちゃんと2人きりで誰ともしゃべらない環境」「赤ちゃんを守らなきゃという責任感の強さ」「自分の時間や仕事を失ったことの喪失感」などが積み重なって気持ちの余裕を失い、“突然起きられなくなる”“子どもをかわいく思えない”などの症状が出る人が多いとか。

 産後の女性の10~15%の人が産後うつだといい、時にはママを支えるパパや家族が共倒れになるケースも…。立花先生は「大変な思いを心に秘めて子育てしていますよね」「自分を責めないで」と親身になって投げかけます。

マンガでわかる! 産後うつ? と思ったら読む本 P29

“うつ”は「気持ちがふさぐ」「興味や喜びの気持ちがなくなる」という状態が一日中、そしてずっと続く病気で、それが産後に起きるのが産後うつ。“マタニティブルー”とよく比較されますが、産後2~3日に情緒不安定になりやすいマタニティブルーは一時的なもので、1~2週間で自然と消えていくのが特徴。産後うつは産後1週間~1年のうちに症状が出ることが多く、治療しないと回復しにくい病気だといいます。

“なんだかおかしい”と感じたら、本書に書かれた2項目でチェックしてみましょう。さらにくわしく産後うつを判断するための質問票も本書に掲載されています。

「お母さんなんだから」の呪い…。産後うつは恥ずかしいことじゃない。「助けて」と言う勇気をもとう

マンガでわかる! 産後うつ? と思ったら読む本 P59

 本書では、自身も2児を育てる監修の細川モモさんが「お母さんなんだから…って言われると、つらくて相談するのをためらってしまう」と語っていますが、実際、産後うつになる人は助けを求めるのが苦手な人が多く、「赤ちゃんの面倒を見られないなんて情けない」「自分が弱いみたいで恥ずかしい」などと考えて、周りに相談しないまま症状が悪化してしまうことがよくあるそうです。

“産後、元気が出ないから病院に行く”ということを多くの人は思いつかないそうで、「こんなに悪化する前に受診してほしかった」というのが医師の切実な願いだとか。

 そこで立花先生は「産後うつは恥ずかしいことでも精神力が弱いわけでも、怠けているわけでもない」と語り、ひとりで回復するのは難しい病気だからこそ、「『助けて』を言う勇気をもって」と呼びかけます。その気力が本人に残っていない場合は、周囲の人が本人のつらい気持ちを丁寧に聞き出し、「そんなにつらいなら相談してみよう」と促すことも大事。一般的に予後がいい病気であるため、早く手を打てば別人のように元気になれるといいます。

マンガでわかる! 産後うつ? と思ったら読む本 P107

 産後うつの治療は、まずはしっかり休み、カウンセリングを受けて、必要に応じて薬を処方してもらう、という3つのことがメイン。数は少ないようですが、重症の場合は入院をすすめられることも。本書には、カウンセリングや医療機関の違い、自分に合った病院の見分け方、クリニックでの治療内容などが紹介されているため、治療を受けることに不安を抱く人も安心できるのではないでしょうか。

 産後うつになった人の中には、重症化しているのに「子どもと離れたくない」と入院を拒否し、家族が目を離したすきに自殺をはかろうとした、という事例もあるようで…。「お母さんが早く元気になることが、子どもにとっても良いこと。入院中は誰かが(乳児院などでも)赤ちゃんを、愛情をもってお世話をしてあげれば大丈夫」と立花先生は語ります。

 また、周りに頼る人がいない場合にサポートが得られる窓口の探し方も紹介されています。これらはネット検索もできますが、「実際に行ってみたら思ったような支援が得られない」「見当違いのアドバイスをされる」などの可能性があり、効率的に信頼できる情報にたどりつくとは言えないのが現実だとか。ママ友に話してもわかりあえない…実家にも頼れない…と困っている人は参考にしてみてください。

(あとがきから引用)「あなたを助けたいと思っている人が確かにいることを、どうか忘れないでください」

 産後うつは、正しい知識さえあれば予防することも可能。落ち込んだ時に気分が改善する食べ物など、予防的セルフケアも本書に紹介されています。本人に言ってはいけないNGワードなど周囲の人へのこまやかなサポートもあり、なんとかお母さんたちを助けたい、という想いが伝わる心強い一冊です。まずはこの本を手元に置き、「何が起きても助けてくれる人はいる」「自分はひとりじゃない」と心に留めておくことが、産後うつ予防の第一歩になるかもしれません。

 筆者も6年前に出産を経験しましたが、産後は急激な環境の変化などで経験したことのない感情があふれ出し、自分が別人のようになってしまったことを今でも鮮明に覚えています。赤ちゃんを抱きながらひとりで泣いている…そんなお母さんたちの姿を本書で見て、涙なしには読み進められませんでした。「“まさか自分が…”と思っても、落ち込んだ状態が長く続くのはまともな状態じゃない」と産後うつの症状を理解し、つらい時は頑張りすぎず、「助けて」と誰かに救いの手を伸ばすことの大事さを、改めて実感することができました。

 妊娠期から“うつ”状態になるケースもあるそうなので、“なんだかおかしい”と感じている人はもちろん、出産準備品の1つとして、本書を妊娠期から手元に置いておくのも一案です。

文=吉田あき