パパ、第3子で初めての育休取得! 50歳目前の関西人気アナウンサーによる家庭内現場ルポ

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公開日:2023/3/30

おそるおそる育休
おそるおそる育休』(西靖/ミシマ社)

 育休に関するニュースが近頃話題になっています。産後期間の生後8週間までに最長4週間育休を取得する「産後パパ育休」制度においても、休業時は医療保険や年金などの社会保険料の支払いが免除され、実質的に休業前の賃金と同じ手取り額を確保できるようになる旨が様々なメディアで報じられています。

 ご紹介する『おそるおそる育休』(西靖/ミシマ社)は、関西のテレビ局・MBSの人気アナウンサーが、50歳を目前に控えたタイミングで第3子を授かり、自分の意志で育休を取得した体験を綴った一冊です。3人目で育休を取った(ふたりの育児をしている約5年の間に社会がだんだんと変わってきた)という境遇の中で、著者は「え、本当に休んでいいの? 給料は減るの? 復帰したとき仕事でちゃんと役に立つ? 周りはどう思う?」など懸念が絶えなく、本書の題名にもある通り「おそるおそる」の育休取得だったといいます。

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「育休」は子どもの生まれた日が起点になるため、自分の体から子どもが生まれるわけではなく産休も無い男性にとっては「育休の入り口がわかりにくい」そうで、周りにもソワソワが渦巻いてた様子が書中冒頭で早速振り返られています。

予定日はあっても予定通りに赤ちゃんが生まれてくるわけではないので、一ヶ月前までに育休取得の申請をしたうえで、妻と「どう? そろそろ?」「そんなん、突然くるんやから、私にもわからん」という会話をしながらソワソワ待つことになります。職場でもシフトを組む先輩から「どう? そろそろ?」と聞かれ、妻に言われたままに「いやぁ、突然くるもんですからなんとも」と答えます。

 お弁当づくりに苦労したこと、上の子たちが新生児を羨む「赤ちゃん返り」、子どもに対するイライラなど「親としての未熟さ」の自覚、イヤイヤ期への対応、コロナ禍の悲劇など、いわゆる「ドタバタ記」的なエピソードが多く本書には収録されており、関西のノリでシリアスすぎず楽しくリズミカルに展開していきます。ですが、最も読み応えがあるのは、どんな育児本でもそうなのかもしれませんが、具体的でプライベートなエピソードです。

 たとえば、比較的早めにいわゆるトイトレ(トイレトレーニング)を達成した第2子の男の子が、兄に憧れて「オムツではなくパンツをはきたい」と言い出して家族は心配しつつも大いに喜び賛成したものの、自宅以外のトイレを拒む生活が当たり前になり、様々な局面で難儀していたところにママが「じゃあ、またオムツにする?」と真心をこめた提案をし、革命的なアイデアが発案されたかのように彼は納得してオムツをはいて安心して様々な所に外出するようになった(でもやっぱり基本的にトイレは自宅)……という「家族の歴史絵巻」とでもいえるようなエピソード。結果だけ見れば、「オムツをはいている」という事実の中に、それだけの経緯や感情が宿っていることに著者は気付いていきます。

プライド云々というのは親の取り越し苦労だったのかもしれませんが、小さな身体で走り回り、大きな目でいろんなものを見つめ、吸収している彼のなかには、やっぱりいろんな譲れないものがあるのだと思います。ちなみに二学期になってオムツで通い始めても、一度もオムツを漏らさず、「早く帰っておうちのトイレに行く!」と言いながら帰る日々です。やっぱり、彼なりに戦っているんだと思います。

「戦い」という言葉を著者は使っていますが、これは「親」と「子ども」という括りが取れて、シンプルに「一人の人間同士」という間柄として子どもたちを見つめはじめるプロセスだったということかと思います。そのプロセス自体が「子育ても育休も、決して画一化できるものではない」という大前提を体現しているように感じました。

 ふたりの育児をした経験したがゆえに「取ったほうがいいかもな」と育休の道をなんとなく選び取ったあと、おそるおそるながらも踏み出した一歩一歩の足跡を集めたスクラップブックのような本書は、これから子育てのフェーズを迎える人、色々な理由で自分自身は育休を取得できなかった、もしくはしなかった人、組織で労務を担う人などにオススメの一冊です。

文=神保慶政