小説『野菊の墓』あらすじ紹介。初恋は叶わないから美しい。引き裂かれるふたりの運命を描いた、心震えるラブストーリー

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/3

「初恋は叶わぬもの」とよくいわれますが、心ならずも結ばれない純愛はいつの時代も人の心を揺さぶるものです。『野菊の墓』を現代文の授業で読んだことがあるけれど、内容を忘れてしまったという方もいるのではないでしょうか? 今回は伊藤佐千夫の『野菊の墓』のあらすじをわかりやすく解説します。

野菊の墓

『野菊の墓』の作品解説

『野菊の墓』は伊藤佐千夫による小説で、著者の処女作でもあります。1906年に雑誌『ホトトギス』に発表されました。矢切の渡しの辺りを舞台として、主人公・政夫と従姉・民子の純粋な愛情と、切ない別れがつづられています。恋の喜びや世間の理不尽さ、やり場のない悲しみが淡々と語られ、今なお多くの読者の共感を得る作品です。

『野菊の墓』の主な登場人物

政夫:15歳の少年。矢切の渡しに近い旧家の息子。

民子:政夫の2歳年上の従姉。政夫の母の看護や手伝いに来ている。

『野菊の墓』のあらすじ​​

 旧家の息子・政夫は体調のすぐれない母と暮らしていた。看護や手伝いに来ていたのは、幼いころから仲の良い2歳上の従姉・民子。

 ふたりは昔と変わらず無邪気に接していたが、年頃の男女が親しすぎると近所ではあらぬ噂が立つように。世間体を気にする母も、政夫に近寄らないよう、民子に注意。民子は政夫と距離を置くようになった。しかし会うのを制限されたことで、今まで意識していなかった恋心にふたりは気づくようになる。

 ある時、政夫と民子は村祭りの手伝いで山畑の綿を採りに行くよう言いつけられた。道中、政夫は野菊の花を摘み、素朴で優しく品格のある民子を「野菊のような人だ」と言う。民子は政夫を「竜胆(リンドウ)のような人だ」と言う。

 ふたりが夜遅く家へ戻ると男女の関係を持ったと疑われ、政夫は予定よりも早く町の中学校へ発つことになった。これが生涯の別れになるとは知らぬまま、民子は政夫を見送るのだった。

 その後、冬休みに政夫が帰郷すると民子は実家に帰されて姿はなく、民子との結婚も母や兄嫁たちに断固として反対されていた。その翌年には民子が嫁に行ったこと、流産から体調を崩し亡くなったことを知らされる。また、民子の遺品には政夫の写真があったそうだ。

 裕福な家との縁談を乞われても拒否していた民子。それに対してかたくなに政夫との結婚を諦めさせた母。ここまで政夫のことを想っていたとは知らずに縁談を進めた民子の実家の家族。大人たちは政夫と、今は亡き民子に詫びるしかなかった。

 民子の墓参りに来た政夫は、その周囲に野菊が茂っているのを目にする。墓一面に野菊を植えた政夫は、再び学校へ戻っていった……。

<第61回に続く>