『高学歴親という病』から読み解く、子どもへの不安を信頼に変える大切さ――小児脳科学者が“正しい脳育て”を解説!
更新日:2023/4/1
本稿で紹介したい本のタイトルは『高学歴親という病』(成田奈緒子/講談社)。なかなかセンセーショナルなタイトルです。しかし実際に読んでみると高学歴親への警鐘だけではなく、どんな親でも当てはまる可能性のある「子どもを愛するがゆえに心配しすぎてしまう」という傾向への注意と、その対策を紹介するもの。また小児脳科学者である著者・成田奈緒子さんの視点で、過熱する早期教育のデメリットと正しい脳育てについても紹介されています。
成田さんはノーベル賞受賞者でもある科学者・山中伸弥さんとの共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』がヒットしたことで子育て世代により知られる存在に。自身が代表を務める「子育て科学アクシス」に相談に来る親子も増えたと言います。その親子と接する中で、成田さんは「高学歴親は研究熱心である一方で、一度迷いが生じると深く悩んで八方塞がりになる傾向が高い」と感じるようになります。ちなみに、本書の言う“高学歴親”とは、自分自身が高学歴な親、自分自身は高学歴ではなくともいわゆる「学歴偏重主義」に陥っている親を指すとのこと。
そして高学歴親が抱えがちな子育ての三大リスクとして“干渉・矛盾・溺愛”の3つが挙げられると成田さんは指摘します。中でも筆者が特に印象に残ったのは干渉について。高学歴親は知識があり頭を使うことが得意なため、子どもを見ていると「このままではきっと失敗する」とある程度見通しが立てられます。この「見通し力」が優れるあまり、転ばぬ先の杖を用意しようとし、干渉してしまうのだそうです。これには高学歴親と言えるか微妙なラインの筆者も頷くことばかりです。
では干渉しすぎないためにはどうすればいいのか? それは「不安」を「信頼」に変えることだと成田さんは説きます。例えば一緒に電車に乗ったとき、いつまでも子どもの切符を親が持っていては子どもを信頼する機会が生まれません。子どもに任せると失敗するかもしれない。それでも任せてみることで、子どもは「親から信頼されている」と感じ、自分で考えて行動できるようになるのです。
また本書では、高学歴親は経済的に裕福であることが多いこともあり、早期教育に力を入れすぎる場合があることも指摘。小さい頃、特に5歳までは知識を詰め込むよりも、“からだの脳”と成田さんが呼ぶ、寝る起きる食べるなど、体をうまく動かす脳を育てるのが重要だと説きます。そしてそのために一番重要なのが、早寝早起きで睡眠時間をしっかりとること、朝ご飯をしっかり食べることだそうです。その“からだの脳”を土台として作られるのが、成田さんが“おりこうさんの脳”と呼ぶ大脳新皮質。言語機能や思考、スポーツの技術面(微細運動)などを担います。ここでも睡眠には情報を整理し固着させる働きがあるため、睡眠時間は重要なのだそう。そして最後に積み上げられるのが、10歳くらいから発達するとされる“こころの脳”、前頭葉です。前頭葉が発達することで「相手のこころを読める子」になると成田さんは言います。忖度など、必要以上に相手を慮ることを良しとしない昨今の風潮もありますが、相手の言外の気持ちを読み取ることは確かに社会に出る上で必要な能力と言えるでしょう。睡眠時間を削ってまで行う早期教育よりも、早寝早起きで生活リズムを整えることと、本人が興味のある分野の知識を脳への刺激として取り入れていくことの方が脳を育てるのだと成田さんは伝えます。
ちなみに本書で筆者が一番心に残ったのが、「自分で決めたことなら、たとえ失敗してもそのあと自分で立ち直れる」という言葉。確かに自分自身の人生を振り返ってもそうだったなと感じます。これからは転ばぬ先の杖を出し過ぎず、気持ちにゆとりをもって子どもを見守っていこうと決意した一冊でした。
文=原智香