「僕らは自然体で、多家良と友仁になっている」演劇マンガ『ダブル』舞台インタビュー。W主演の和田雅成&玉置玲央が舞台版ならではの魅力を明かす
公開日:2023/4/5
2023年4月1日から、野田彩子原作の演劇マンガ『ダブル』(ヒーローズ刊)の舞台公演が上演されている。本作は、演技の才能を開花させる宝田多家良と、同じ役者として劣等感を抱えながらも彼を支える鴨島友仁との特異な関係性を描いた物語だ。
舞台『ダブル』にて宝田多家良役を務める和田雅成さんは舞台『刀剣乱舞』などの2.5次元舞台で話題となり、バラエティ番組でも人気を集める俳優だ。鴨島友仁役の玉置玲央さんは、劇団「柿喰う客」での活動を皮切りに、NHK大河ドラマをはじめ映像作品にも多数出演。幅広い活躍を見せている。
本記事では、和田雅成さんと玉置玲央さんへのインタビュー内容をお届けする。公演に向けて絶賛稽古中の二人が舞台『ダブル』にかける想いとは? 舞台の見どころも含め、お話をうかがった。
このマンガは自分の話だと思った
――今回の舞台は、マンガ『ダブル』をもとにしています。実際に読まれていかがでしたか?
和田:何年か前に読んで「僕はまだ役者としてこの領域に達していないな」と思いました。僕が今回演じる多家良は、役が憑依するかのようになり、過去の記憶まで見える。そして友仁と役を深掘りしながら演技を構築するじゃないですか。
――独特な描写が多いですよね。
和田:そうなんです。だから、役者として近いものを感じる部分もあれば、すごく遠くにも思えて。
玉置:僕も俳優仲間に勧められて読んでいたんですけど、誤解を恐れずに当時の気持ちを言うと「俺の話だ!」って思いましたね。マンガにも出てくる、ロシアの作家・チェーホフ作の戯曲『三人姉妹』は僕も演じたことがあるし、友仁が所属する劇団における境遇や、多家良のような圧倒的な存在に打ちひしがれる感覚も知っている。「俺に取材して作ったでしょ?」って(笑)。
――重なる部分が多かったんですね。
玉置:はい。僕は役者として献身性を大事にしているんです。それは座組、作品、もっと言うと座長に対してもそうなんですけど。なるべくその作品全体に対して、何でも供給できる存在でありたい。僕が演じる友仁は主にそれを多家良に注いでいますが、その姿にも共感しました。
目を見れば、多家良と友仁の世界になる
――舞台『ダブル』でW主演を務めるにあたって、率直にどんな気持ちでしたか?
玉置:自分が設けた演技のハードルも超えたいし、演技を生業とする人たちの想い、原作のファンのみなさまの想いにも応えたい。そういう意味で気合いが入りましたね。
和田:楽しみな気持ちと、怖さもありました。多家良は僕にないものをたくさん持っていて、役への入り方がとてつもないじゃないですか。自分がこの天才・多家良にたどり着けるのか分からないし、僕の今までの役との向き合い方だとたどり着けないかもしれないなって。
――どのように多家良を自分の中に構築していったのでしょう?
和田:これはもう、玲央くん(玉置玲央さん)におんぶにだっこです。
玉置:いやいや、そんなことない! お互い様です。
和田:僕、役に対して1人で考えるのが好きなんですよ。それで結局「もうダメかもしれない」って落ちていく(笑)。でも稽古場に行くと横に玲央くんがいて助けてくれるし、目を見れば自然と友仁と多家良の世界に連れて行ってくれる。どんどん楽になっていきました。
――普段の和田さんに、多家良っぽいところがあるんでしょうか。
和田:ありますね。劇中でも、僕が『三人姉妹』に出てくるソリョーヌイという軍人を演じるところがあるんですけど、話自体が難しくて混乱しちゃうんです。でも玲央くんはね。
玉置:そう、以前ソリョーヌイを演じていたことがあります。
和田:僕より深い理解があるから、横で「ここのソリョーヌイはこういう状態で……」と説明してくれる。多家良って、台本を自分で覚えられないから友仁さんに読んでもらったり、役の解釈を助けてもらったりするじゃないですか。そことすごいリンクしていましたね。
玉置:周りからも「まさに多家良と友仁じゃん!」ってね。
和田:言われたね(笑)。でもそのおかげで、知らないことは「知らない」って言った方がいいんだって僕も気づいたんです。玲央くんは、僕に対しても誰に対しても本当にエネルギーを注いでくれる。そこがすごいし、感謝しています。
――玉置さんはいかがですか?
玉置:稽古が始まる前に、お茶会みたいな感じで顔合わせをしたんですけど、その時にマサ(和田雅成さん)と「俺たちは経歴や年齢も違うけど、この役では何でも言い合っていこう」って話したんですよ。遠慮があると面白いものはできないし、何より多家良と友仁にはなれないから。でもそう話していたおかげで、稽古場での全てのやりとりが多家良と友仁に繋がってくるというか。自然とそれぞれの役になっていると思います。
――無理なく多家良と友仁として存在できていると。
玉置:マサが、休憩中に『ダブル』の世界観に入り込んでセリフの練習をしている姿は「多家良だな」って感じますし、そう感じた瞬間は幸せですよね。あとは、ティッシュを机の上にてんこ盛りにしているのとかも(笑)。
和田:ははははは(笑)。
玉置:多家良って、生活にこだわりがないじゃないですか。その感じが垣間見えて「多家良っぽいなぁ」と。あとでスタッフさんがゴミ袋持ってきてくれるんだよね。
和田:あれは本当に申し訳ない!
玉置:いや、それで全然いいんだよ。自然とマサでもあり多家良でもあるっていうのが、この『ダブル』という作品を構成しているんだから。ていうか、ティッシュの話は出さない方がいいかな……?
和田:いや全然。言っちゃってください(笑)。
最後のシーンは、あえてまだ稽古していない
――物語では、多家良が演技の壁にぶつかったり、友仁が自分の立場に悩んだりする部分が印象的です。特に好きなシーンはありますか?
玉置:まだ稽古はしていないんですが、最後の部分が自分としても気になっています。僕が演じる友仁は、スターへの階段を駆け上がる多家良に憧れや劣等感を抱いている。ストーリーの変化はあれど、その感情が根底にずっとありますよね。でも友仁はそういう心の揺れ動きを一貫して表に出さない。という中で多家良がある時、その距離感を飛び越えてくるんです。
――大事なシーンの稽古をしていないのには、理由があるんでしょうか?
和田:取っておいているんですよね。
玉置:そう。稽古を進めながら感情が伴うことで、僕らはどんどん多家良と友仁になってきている。でも、最後にお互いがお互いを超える演劇をするには、マサとも、演出の中屋敷法仁さんともこれまで以上に存分にやりとりする必要があると思っています。それぐらい大事なシーンなので、これからみんなで築いていくところですね。
――和田さんはいかがですか。
和田:マンガにもあるんですが、多家良が「この世界が知りたい」と強く自覚するシーンがすごく好きです。友仁さんや演技のことも知りたいという、多家良の強烈な純粋さがこのシーンに詰まっているように感じました。僕も多家良の純粋さを全部受け止めて、このシーンを最大限表現できればと思います。
――舞台には多家良や友仁以外にも、個性的なキャラクターが多いですよね。注目の人物はいますか?
和田:飯谷! 飯谷!
玉置:全員が愛しい登場人物だという前提はあるけど……飯谷宗平だよね! 飯谷は多家良と友仁が所属する劇団の先輩で。原作にほぼ出てこないオリジナルキャラだからこそ、いい意味で今回の舞台を自由にかき回してくれる。
和田:飯谷役の永島敬三さんは、玲央くんと一緒の劇団「柿喰う客」のメンバーなんですけど、安心感をくれる玲央くんとは打って変わって、全てを壊してくる(笑)。こんな二人が舞台で共存しているのがまず面白いし、この物語において飯谷という存在がすごくありがたいです。見ている人たちもきっと楽しくなるキャラクターだと思います。
玉置:そうだね。『ダブル』は演劇を題材にしている上に、劇中劇もあるから、ものすごいメタ構造なんですよ。その描写によってお客様が混乱しないか心配だったんですけど、飯谷がいれば大丈夫だなって(笑)。飯谷がフィクション性を担って盛り上げてくれるので、楽しみにしていてほしいです。
和田:でも僕、アドリブに対応しきれなくて笑っちゃうんですよね。早く飯谷に慣れて、多家良としていいリアクションができるようにならないと(笑)。
苦しい中でも、一歩を踏み出すきっかけになりたい
――最後に、舞台への意気込みやお客様へのメッセージをお願いします。
和田:僕が役者をやっているのは、本当にベタですけど、見ている人に笑顔になってもらいたいという想いが原点にあります。
その気持ちを、これまでの舞台では“陽”でお伝えすることが多かったんですが、今回は“陰”で表現する。僕自身も、舞台には怖さを抱えながら臨んでいます。みなさんも苦しさや怖さを日々抱えて生きていますよね。そういう中で僕と多家良が踏み出す一歩って、かなり泥臭い。でも「そんな一歩でもいいんだ」と思ってほしいし、色んな気持ちを共有して、一緒に泥臭く前進したいです。
――玉置さんはいかがでしょう?
玉置:舞台って正直、終わってから後悔が残ることもあるんです。でも舞台『ダブル』は何がなんでも満足できるものにしたい。なぜならこの作品が好きだし、演劇が好きだから。でもその成功は、座組のメンバー全員で作品に向き合い、お客様に劇場に足を運んでいただかないことには実現しません。
だから、舞台『ダブル』という素晴らしい作品を作り上げるために力を貸してください、というのが僕の正直な願いです。みんなが幸せになるよう全力を注いでいるので、ぜひ劇場に来ていただいて、一緒にこの作品を作りましょう。お待ちしています。
プロフィール
和田雅成
1991年9月5日生まれ、大阪府出身。舞台『刀剣乱舞』『おそ松さん on STAGE~SIX MEN’S SHOW TIME~』、ミュージカル『薄桜鬼 志譚』出演により、2.5次元俳優として話題を集める。2022年4月より1年間、日本テレビのバラエティ番組「ろくにんよれば町内会」のレギュラーを務め、2023年春以降の映画『映画刀剣乱舞-黎明-』『ゲネプロ★7』『愛のこむらがえり』にも出演予定。
玉置玲央
1985年3月22日生まれ。東京都出身。劇団「柿喰う客」の中心メンバーであり、演劇ユニットカスガイの主宰も務める俳優・演出家。2019年に映画『教誨師』で第73回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞を受賞。NHKの連続テレビ小説『花子とアン』『おかえりモネ』、NHK大河ドラマ『真田丸』『麒麟がくる』『大奥 シーズン2』での活躍に加え、2024年大河ドラマ『光る君へ』への出演も決定。