国家公務員の知られざる婚活事情。各省庁の食堂レポや国会での禁止事項を紹介『霞が関の人になってみた』
公開日:2023/4/19
先日、ある大臣がレクを受けなかったとか受けたかもしれないとかでニュースを騒がしていた。一般には聞き慣れないこの「レク」という言葉、実は“霞が関”用語なのである(“霞が関”とは日本の省庁があつまる行政の中心地。お隣の永田町は政治の中心地)。「レク」とは説明や意見交換、勉強会などのこと(レクチャー)で、国会議員に対して行う各省庁の官僚のお仕事のひとつなのだ。
霞いちか『霞が関の人になってみた 知られざる国家公務員の世界』(カンゼン)は、そんな“霞が関の中の人”たちについて楽しく緩やかに学べる一冊だ。著者は他業種から転職して霞が関で国家公務員として働きつつ、無個性、お役所仕事といった一般的なイメージが強い“官僚”も、喜んだり哀しんだりする普通の人間であることを知ってほしいと本書を書いたという。
霞が関の中央省庁で働く国家公務員(官僚)とは、三権分立である「行政」の立場であり、国会で定められた法律というルールを実際に運用するために、さらに細かいルールを適応させる具体的な実務を行うお仕事をする人たちである。
おおまかに国家公務員の代表的なお仕事とは、
1.法律案を作って法案を通すまでの巨大プロジェクト。
2.法律に則ってルールブックを作るところ。
3.法律に従って運用しているか、管理監督をするところ。
4.予算や人事など総務的な仕事や国会の調整など、省庁全体を横断して取りまとめる仕事。
5.訴訟などの対応。
このほかに国会対応や文書の確認作業、そして資料作成、会議の出席などがある。
なかでも国家公務員がブラック企業並みに過酷であるのが、1番の法律の大幅な改正が必要なときや、ゼロから法案を通す巨大プロジェクトであるという。このプロジェクトが始まると普段の業務から離れ、法律案を作るためだけに小部屋に入れられ、朝から晩まで法律案について議論したり、関係各所と調整したり、国会議員からの質問に応えたりと、法律案が成立するまでシャバに帰ってこられない。このカンヅメの小部屋は通称「タコ部屋」と呼ばれ、皆から恐れられているという。
また「政策」は、省庁の現場からボトムアップでじっくりと作り上げられるものから、政治家からのトップダウンによって最優先で作られる「マル政(政治マター)」といった“政治の都合”でスピーディーに作り上げられるものもある。上からも下からも様々な都合で現れてくるお仕事には同情を禁じ得ない。
また、国会答弁の「言葉」の決まり事も面白い。「検討して参りたい」は、一般的なビジネス言葉ではやんわりと断りを意味する言葉であり、ついつい答弁で使われるとその場を取り繕うための言葉に感じてしまうが、実は国会答弁で使われる「検討して参りたい」は、「やります」とイコールなほど前向きな回答であるという。「検討する」と発言した以上、かならず検討する場を作り、基本的にやる方向で動くのだという。
そのほか、各省庁の食堂レポや霞が関の人たちの婚活事情、国会での意外な禁止事項なども面白い。なにかと堅物なイメージの“霞が関の人”たちだが、次から次へと飛び込んでくる仕事を臨機応変にこなすなど、思いのほか柔軟な仕事に驚くと同時に、多忙なのに給料はそれほどでもなく残業代が適切に払われないケースもあるなど、現場の人たちの苦労が偲ばれる一冊だ。
文=すずきたけし