「怖い上司」はあなた自身が作り出している!? 『嫌われる勇気』著者の人生相談の回答が、泣きたい日の痛みをやわらげる
公開日:2023/4/14
オンライン雑誌『クーリエ・ジャポン』の連載「25歳からの哲学入門」から、30のお悩みを厳選。書籍『泣きたい日の人生相談』(岸見一郎/講談社)は、Q&A方式でさまざまなお悩みに応える1冊となっている。
ライター・古賀史健氏と共に著したベストセラー『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)の著者としても知られる岸見一郎氏。高校時代に哲学を志し、その後、京都大学大学院文学研究科博士課程を満期で退学。自身が専門とするプラトン哲学などと並行して、1989年からアドラー心理学の研究を開始した。
のちに精神科で勤務し、カウンセリングの過程では「このように考えたら難局を乗り切れるかもしれないという希望を持てる話がしたい」として、たくさんの悩める人びとと向き合ってきた著者。本書でもその姿勢は変わらず、やわらかく優しい語り口で「人生論」を説く。
現実に「不安」を感じているなら「できるところからやってみるしかない」
楽しく生きるのは、多くの人にとっての理想だろう。しかし、現実には「人生のすべてにおいて不安」で「今の仕事も将来どうなるか」もわからない。「貯金もわずかでパートナーもいない。どうしたらいいのでしょう」と、もがく人たちもいる。
なぜ、日常にあるすべての「不安」から抜け出せないのか。その理由は「明確な対象がないから」と答える著者は「ぐちぐち言わず、できるところからやってみるしかありません」と背中を押す。
コロナ禍で誰もが味わったと思うが「人生」はもちろん、私たちが暮らす「世界がどうなるか」すらわからないのが現実だ。生きる上では、漠然とした不安の正体を「明らかにする」必要もある。
例えば、言葉の意味として似た印象もある「恐れ」は、災害や事故など、そこに明らかな対象がある。しかし、「頑張っても、仕事をしても将来どうなるかわからない」「貯金もあまりない」といった不安には「明確な対象」がない。
では、どうすればよいか。仕事に不安があるなら、別の道を探す。貯金がわずかならばお金を貯めてみるなど、「できるところからやってみるしかない」と著者は説く。ただ、けっして読者を突き放しているのではない。現実にある出来事の多くは「どうすることもできないほど困難ではない」と、フォローしている。
不安を理由に、物事が「できなかった」と考えるのは「逃げ」でしかない。結果が伴わなければ「再挑戦」すればよいのだ。世の中にはいざやってみると、意外と上手くいくこともたくさんある。だからこそ、著者の「すべてが自分の予想通りになるという人生を、生きたいと思いますか?」という問いかけが、心に深く突き刺さる。
「怖い上司」にはどんな態度でも「顔色」をうかがわない勇気を
人間関係の悩みも尽きない。なかには「私がやることにいちいち嫌みをいったり、どなったりする上司に耐えられません」と嘆く声もある。
上司と部下となると、会社での役割や力関係があるため反論も難しい。しかし、著者は「やたらと怒鳴る上司は無能なだけです」と主張する一方、「怖い上司」は「あなた自身が知らぬ間に作り出している」とさとす。
著者によると「怖い上司」は、2種類いる。一方は「部下を叱りつけることが教育に必須だと考えている上司」で、もう一方は「仕事で自分に力がないことを部下に見抜かれることを恐れる上司」だ。
目的も異なり、前者は「部下が何度も失敗を繰り返し、成績が伸びないから叱るのであり、それを正さないといけない」と思い、「怒り」に任せて部下を叱責。後者は、自身が「無能」であるため「部下を貶めることで、相対的に自分の価値を高めよう」として叱りつける。
いずれも相手を変えるのは難しいが、上司が「どんな態度を取ろうとも顔色をうかがわず、指摘が正しければそれを受け入れ、間違っていればそれを正そうと決めておく」のはひとつの防衛手段になる。
また、あなたを評価してくれるのは、日常的に「嫌みをいったり、どなったりする上司」だけとは限らない。献身的に働く姿を、他の上司や先輩、同僚、顧客が評価してくれているケースもある。あきらめることなく、自分と向き合ってくれる人への「貢献感」を抱けるようになれば、今抱えている「上司からどう思われるか」という呪縛から解放されるはずだ。
これらの他、「自分のために生きる心得」「人生の苦悩と向き合う」「人間関係のストレスを乗り越える」「恋愛、結婚の哲学」と4つの大枠に沿って、30個に及ぶ悩みに応える本書。アドラー心理学を学ぶ入門書としても最適で、その内容を読めば、毎日が充実していくはずだ。
文=カネコシュウヘイ