どこから読んでも、通して読んでも楽しめる1話140字の超短編小説! 父が遺した宝物を求め、少年が7つの星を巡る壮大な物語
公開日:2023/4/16
旅がしたい。冒険がしたい。同じことを繰り返す日常に飽きてくると、そうした刺激を求める感情が一気に湧き上がることがある。とはいえ、危険を顧みず勢いのまま未踏の地へ足を運ぶほどアグレッシブではないし、そもそも未踏の地なんてそうそうない。そんなときに冒険欲を満たしてくれるツールとして、本はとても優秀だ。
『真夜中のウラノメトリア』(神田澪/KADOKAWA)は、寂れた、ゆるやかに死にゆく町「灰色の町」に住む主人公が、7つの星を巡る旅に出る物語。そして1ページにつき140文字ぴったりの物語が1つ掲載されていること、どのページから読んでも楽しめること、通して読むと壮大な冒険譚になっていること、と3つの特徴を持っている。これなら「まとまった時間が取れない」「本を読むことに慣れていない」「長編は疲れる」という人でも気軽に読み進められる。
物語は、両親を亡くし、貧しく学校にも通えない主人公「僕」の働いていた工場がつぶれ、それをきっかけに宝探しの旅に出るところからスタートする。死んだ父親が遺した手記の最後に、「世界に一つしかない宝物を、灯台の下に埋めた」と書かれていたのが気になっていたのだ。また、手記に挟まっていた写真には雲にも届きそうな高い灯台が写っていて、その裏には「天使の星で最も高い灯台だ。探してみろよ」と書かれていた。
「僕」はリュックを背負い、飼い犬のルクを連れて、手記と写真を頼りに生まれ育った町を出る。流れ星のように星を繋ぐ星間列車に乗り、大気圏を突破して、最初にたどり着いたのは「秘密の星」。だがこの星から出るには、星民の秘密を10個集める必要があるという。それにも拘わらず、この星の住民は誰もが秘密主義。それはいったいなぜなのか。一見、来訪者を楽しませるゲームのようにも思えるが――。その答えは、「知ってはいけない秘密」に記されている。この星の「秘密」を知ったとき、思わずゾッとすること間違いなし。
「秘密の星」を脱出した主人公は、その後「嘘の星」「動物の星」「ロボットの星」「愛の星」「魔法の星」を経由し、出会いと別れを繰り返して「天使の星」へとたどり着く。どの星にも独自の文化があり、闇があり、その中で人々や動物は生きている。最初は突拍子もなく見えるルールや文化にも必ず意味があり、理由があるのだ。次々と繰り広げられるその独特かつ作り込まれた世界観・ストーリーに、まるで未踏の地を冒険する開拓者になったかのような没入感があった。
書店では文芸書のコーナーに並んでいたが、読んでみると子どもでも読みやすく、笑いや感動もありつつ、話によってはショートショートのような衝撃をくれる。次の話がどんどん気になる構成に引き込まれ、つい一気読みしてしまった。
旅の終わり、「僕」は父が遺した「宝物」によって、とても大きな選択を迫られることになる。彼は何を選び、どのような道を進むのか。そして、宝物を遺した父の思いとは……? 壮大な旅の結末を、ぜひとも見届けてほしい。
文=月乃雫