73歳以上は国からの社会保障が打ち切り!? 『ドラえもん』藤子・F・不二雄の「SF・異色短編」のゾッとする結末の話3選

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更新日:2023/4/17

藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編
藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編』(藤子・F・不二雄/小学館)

 日本の国民的アニメの一つとして、いまも多くの世代に親しまれている『ドラえもん』。作者の藤子・F・不二雄氏が描く夢と希望にあふれた世界観は、令和になっても子ども達の目に輝きを与えている。しかし、藤子・F・不二雄氏が生み出した作品はもちろんこれだけではない。彼が生涯に描いた話は約3500話あり、それぞれに『ドラえもん』とはまた別の世界観、おもしろさがある。

 中でも異彩を放つのが、「SF・異色短編」シリーズ(小学館)。現代世相を痛烈に風刺した話が多く、『ドラえもん』のメインテーマが夢・希望とするなら、本シリーズのテーマは奇妙・不気味・不思議といった感覚に近い。そして2023年4月9日からはNHK BSプレミアムで、選りすぐりの10作品の実写ドラマ放送がスタートした。本稿では、そんな藤子・F・不二雄異色短編集から、ゾッとする結末の話を3本紹介したい。

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「自分会議」(SF・異色短編(4)/第3話)

 お金への執着が恐ろしい結末を生んだ作品として有名なのが「自分会議」だ。物語は、主人公の学生のもとに、9年後、23年後、33年後の自分を名乗る3人が突如現れ、所有する時価3億円相当の山林を売るか残すか議論する、という内容である。お金への執着が強いうえに自身が生きる時代の生活を豊かにしたいがために、終始独りよがりなことばかり主張する4人の主人公。結局、幼少期の主人公も呼び、5人で山林を売るか多数決を取ることに。しかしこの行動が、思いもよらない結末のきっかけとなってしまう。最後のページでは誰もいない静まり返った部屋が描かれるのだが、これが何を意味するのか……。怖さだけではなく不気味さも味わえる作品だ。

「定年退食」(SF・異色短編(1)/第11話)

 僕達が生きるリアルな世界で起きている、社会保障費の増大や年金受給年齢の引き上げ。決して良いことではないことは明らかだが、本作はそんないまの日本を藤子先生が予見していたかのような内容となっている。物語の舞台は、深刻な食糧難と社会保障制度の破綻が起きている時代。主人公の高齢男性は国から支給された「定員カード」で食糧配給や社会保障を受けているが、カードの有効期限は刻一刻と迫っていた。そんなとき、突如として首相から告げられる定員カード所有者の大幅な年齢制限。73歳以上は国からの食糧配給、医療、年金といったすべての保障が受けられなくなるという内容だった。ちなみに主人公は74歳、彼はいったいどんな結末を迎えるのか……。破綻した社会保障によって、静かに人生の終わりを迎えていく高齢者を描いた、悲しくもゾッとする話だ。

「箱舟はいっぱい」(SF・異色短編(4)/第5話)

 本シリーズの中で、僕がもっともゾッとした結末を迎えるのが「箱舟はいっぱい」という作品だ。物語は「数日後、彗星が地球に衝突し人類は滅びる」という噂を耳にした主人公とその家族が、色々な噂に翻弄されるという内容。騒ぎはどんどん大事になっていくが、総理大臣直々の声掛けや、彗星衝突をネタにした詐欺グループの逮捕報道によって噂に終止符が打たれる。しかしこれで終わるはずがないのが藤子・F・不二雄作品。ラスト数ページは、まったく予想もしない展開が待っている。最後の1ページには、主人公とその家族が笑顔でピクニックに出かけるシーンが描かれるのだが、そこが本作のもっともゾッとするポイントだ。放送日程の詳細は未定だが、この話も実写ドラマ化されるとのこと。どんな結末を迎えるのか、ドラマ放送日まで待つのもよし、先に原作で確認するのもよしだ。どちらにしろ、ぜひご自身の目で確かめていただきたい。

 藤子・F・不二雄氏といえば『ドラえもん』や『パーマン』という平和な世界観を描いた作品を思い浮かべる大人にこそ、本作はおすすめだ。各話で描かれる普遍的な人間の業や、人の内に秘められたダークな部分を垣間見るたびにいままでの彼のイメージを良い意味で覆すきっかけになるはずだから。

文=トヤカン