書店員と司書が名探偵コンビに!? 出版物への愛がにじみ出す連作ミステリー小説『27000冊ガーデン』
公開日:2023/4/19
元書店員の経験を生かして書いた書店ミステリ『配達あかずきん』で作家デビューした大崎梢さん。同作から連なる「成風堂書店事件メモ」シリーズだけでなく、出版社の営業や編集者などを主人公に描きだした作品は、行間のはしばしから、本(出版物)そのものへの愛が滲みだしている。このたび刊行された『27000冊ガーデン』(双葉社)も同じだ。
高校で司書をつとめる駒子のもとに、生徒からもちこまれる本にまつわる謎を、出入りの業者である書店員の針谷とともに解決していく連作短編集で、読んでいると、学生時代にどんなにつまらなくてしんどい現実が待ち構えていようと、本を読んでいるあいだだけは心を逃がすことができて、今日をふんばることができていた日々が、古本のにおいとともに思い出されて胸がきゅっとなる。
転落事故死の現場で人が争う声を聞き、その場に借りていた図書室の本を落としてしまったために、犯人に狙われているのではないかと怯える生徒。施錠された深夜の図書室で荒らされたディスプレイと、10年ほど前にも起きていた密室内での奇妙な事件とのリンク。盗まれた生徒の私物が貸し出し記録のない図書室の本とともに発見されるという不可思議な連続事件。
探偵役をみずから買って出たわけでもないのに、何かと駆り出されることの多い駒子は、それぞれの事件の裏にひそんだ人の想いに触れるうち、司書としての自分の役割を再確認していく。本は、ただおもしろいだけの存在じゃない。タイトル一つで誰かを傷つけることもあれば、人生を左右するほど大きな影響を及ぼすこともある。たった一冊が、今を生きるよすがになることも。
密室事件をさぐるさなか、駒子はこんなことを言う。〈本って、それそのものが密室みたいじゃない?〉外から完璧に閉ざされていて、中で何が起きているかを知りたければ、ページをめくるしかない。そう考えると、図書館は密室だらけでおもしろい、と。
人の心も同じで、考えてみれば高校も密室だらけである。誰にも明け渡すことができない心が、2万冊以上の本のなかから、自分と共鳴できる一冊を見つけ、結びつく。そこにはきっとただ美しいだけじゃない、切実な痛みをともなうものもあるだろうけれど、その痛みを見落とさないために、駒子のような司書が、本と生徒たちのあいだに存在しているのではないだろうか。密室をこじあけることは誰にもできない。でも、決して孤独に追い詰められることのないよう本を介して寄り添う。それは教示とはまた違う役割だ。
ちなみに本書に登場するタイトルは、伊坂幸太郎や辻村深月、恩田陸など、誰もが今すぐにでも気軽に手にとることができるものばかり。この小説もまた駒子のように、読者と本をつなぐ案内人のような役割を果たしている。そこにもまた、著者の本そのものへの愛がにじみ出ている。
文=立花もも