悪役令嬢×現代経済という異色作! バブル崩壊後の架空日本を舞台に、破滅の運命を変えることができるか?

マンガ

公開日:2023/4/25

現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変
現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』(デェタ:漫画、二日市とふろう:原作、景:キャラクター原案/オーバーラップ)

 多種多様なイケメンが登場し、彼らとの日々を過ごすなかで、意中の人と結ばれる過程を楽しむ――いわゆる「乙女ゲーム」。その主人公であるヒロインはどんな逆境にもめげない、努力家でピュアな人物として設定されることが多い。そんなヒロインの前に立ちはだかる大きな壁が、ライバルとなる「悪役令嬢」だ。この悪役令嬢とは、たびたびヒロインの邪魔をして敵対する女性キャラクターのこと。ときに汚い手すら辞さないスタンスはまさに悪役に相応しく、ヒロインとは対局の位置にいる。

 いま、この悪役令嬢を主人公に据えた物語がブームとなっている。それらは「悪役令嬢モノ」と呼ばれ、ヒット作が次々に生まれているのだ。

現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』(デェタ:漫画、二日市とふろう:原作、景:キャラクター原案/オーバーラップ)も、そんな悪役令嬢モノのひとつ。しかもその人気ジャンルに歴史や経済という骨太な要素を組み合わせることで、他に類を見ない読み心地を実現させている。同名タイトルの原作小説は「このライトノベルがすごい!2022」単行本・ノベルズ部門の8位、「次にくるライトノベル大賞2021」の総合7位に輝いたというから、面白さはお墨付きだ。

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 物語は名もなき女性が命を落とすところから幕を開ける。不況のあおりで会社は倒産し、転職には失敗。結果、激務の日々を送ることになり、体を壊した彼女は、安アパートでひとり最期を迎える。「なんて馬鹿みたいな人生だっただろう」と自嘲しながら。

現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変

現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変

 ところが次の瞬間、彼女は眩しい光の中で目を覚ます。そう、“転生”したのだ。しかし行き着いたのは、現代を舞台にした乙女ゲーム「桜散る先で君と恋を語ろう」の世界だった。しかも彼女に与えられた新しい名前は、桂華院瑠奈。これはゲームの中に登場する悪役令嬢で、物語のラストで破滅の運命を辿るキャラクターなのだ。つまり、転生した主人公はその瞬間、自身が最終的に破滅することを悟るのである。

現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変

現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変

 しかしここから、瑠奈として生まれ変わった主人公の快進撃がスタートする。

 前世の記憶とこの奇妙な世界の情報を照合して考えた結果、破滅につながるのは桂華院家の経済力が喪失してしまうことが原因であると推察される。逆に言えば、経済の基盤さえ失わなければ破滅の運命を回避できるかもしれない。そのために瑠奈は、戦略的な経済バトルを仕掛けていくことになるのだが……。

現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変

現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変

現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変

 ここまで読むと、なかには「経済には明るくないからちょっと……」と苦手意識を抱く人もいるだろう。しかしそれは心配無用。作中にはさまざまな経済用語が登場するものの、その都度わかりやすい注釈が添えられている上に、一話ごとにさらに詳しい解説ページがある。また、物語は1990年からスタートし、史実をもとに展開していく。大手銀行の経営破綻など、一度は耳にしたことがあるような事件もストーリーに絡んでくるため、私たちが生きる現実世界とのリンクを楽しみながら追いかけることができる。

 なにより魅力的なのは瑠奈のキャラクターだ。桂華院家、そして自分自身を守るため、前世で培った知識を駆使して奮闘する彼女は、見ていて非常に応援したくなる。「桜散る先で君と恋を語ろう」での設定上は悪役令嬢だったものの、いまの瑠奈の中にいるのは、安アパートで孤独死したひとりの女性。だからだろうか、とても努力家で、周囲のことをよく考えて行動する。その姿は決して“悪役”なんかではない。

 瑠奈はこのまま破滅の運命を回避できるのか。それとも、やはりゲームのシナリオ通りにバッドエンドを迎えるのか。経済を動かしていく彼女が自分の運命をも大きく動かし、最後には幸せを手にしてほしいと思わずにはいられない。

文=イガラシダイ