青空球児・好児、おぼん・こぼん、ナイツ、錦鯉、U字工事…人気芸人が多数所属する「漫才協会」。所属芸人108組の芸人名鑑が誕生!
公開日:2023/4/25
東京お笑いシーンを俯瞰で見たとき、どこよりも“深い”芸人たちが集うのが漫才協会だろう。漫才協会の礎は、1955年に誕生した漫才研究会にある。かつてはコロムビア・トップ・ライトや昭和のいる・こいる、内海桂子・好江といった、お笑い史に残る芸人たちが所属。現在も、青空球児・好児、おぼん・こぼん、ナイツ、U字工事など、さまざまな芸人たちを観ることができる。
漫才協会の主戦場は、浅草・東洋館。現在、月の半分以上はこの劇場で寄席公演を行っている。協会には100組を超える芸人が所属しており、彼らの披露する芸は漫才や漫談に限らず、コントやマジック、曲芸、ものまね、紙切りなど多種多様。さらに、下は10代から上は80代まで芸人の年代も幅広い。歴史・芸の幅・年代……あらゆる意味で、東京でもっとも深いお笑いが観られると言っても過言ではない。
『ザ・漫才協会ファンブック』(主婦の友社)は、長い歴史を持つ漫才協会の“今”を切り取った1冊だ。漫才協会初の公式本であり、取材時点で所属していた108組の芸人インタビューを掲載。さらに、巻頭には「高田文夫×青空球児・好児」「おぼん・こぼん×ナイツ」の対談が収録されている。数カ月の密着取材を経て、ほぼすべての写真が撮りおろし・オールカラーの豪華な1冊となった。
年代や所属年数が異なるからこそ、対談やインタビューには芸人の色が出る。特に、語る芸人により漫才協会の見え方がまったく異なっているのが面白い。例えば、1979年から協会に所属している青空球児・好児。協会の変遷を40年以上見ているからこそ、「昔は『自分たちさえよければいい』っていう年寄りが多くて……」「今のこの雰囲気を作ったのは本当にナイツのおかげ」(球児)と、かつてと現在を比較した言葉が飛び出す。一方、若手からは「歴史のある舞台なので1ステージの重みが違います!」(九州男子”・下地)、「ここでの舞台は『修行の場』」(春組織・新垣6)など、フレッシュなコメントが。
また、“師弟関係”に関する話も興味深い。かつての漫才協会では、入会するために所属芸人の弟子になる必要があった。例えば、なぞかけ漫談で有名なねづっちの師匠はWエース。ねづっちは、Wエースを「とにかくやさしかった」と振り返る。「自分が一番面白いと思って自信満々でやれ」という教えのほか、亡くなる1週間前まで舞台に立ち続けた丘エース師匠を追想。「谷エース師匠が立って、丘エース師匠は椅子を置いて漫才して。『こいつ、立つこともできないんですよ!』で爆笑をとっていて、すごいなと思いましたね」と、「普通は笑えないような姿で笑いをとる」究極の笑いを体現した師匠の姿を振り返り、「僕も80歳くらいまでは舞台に出たい」と語る。Wエースのほかにも、舞台に生き、最後まで芸を貫いた芸人は多数いる。本書を読むと、漫才協会は現在の構成メンバーだけでなく、かつてのレジェンドたちが築き上げた堅い土台の上にあるのだと思い知らされる。
漫才協会では、毎月1日~19日に東洋館でお笑い寄席「漫才大行進」を開催している。『ザ・漫才協会ファンブック』には、持参することで入場料が何度でも500円引き(大人料金から)になる特典が付いている。本書を持って寄席に行けば、気になる芸人の情報をすぐに確認可能だ。お笑いライブは数あれど、こんなにも豊かな個性が一堂に会す場はなかなかない。何十年もお笑い界を支え続けるレジェンドから勢いのある若手まで、多彩な芸人が揃う漫才協会。本書を読んでから行く“東京お笑いの原点”漫才協会の寄席は、格別だ。
文=堀越愛