SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第22回「アレルギー検査」
公開日:2023/4/27
少し前の話になるが、アレルギー検査というものをしたことがある。原因不明の体調不良が続き、お医者にかかった時に勧められたのだ。
正直言って、全く気が乗らなかった。出来ることならやりたくなかった。何故ならば、自分の身体に合わないものを発見してしまった結果、それと触れ合わないようにおののきながら今後の人生を送らなければならないというのが、億劫であり恐怖だったのだ。自分の身体に合わないものを排除できるというメリットは、新たな苦手意識を抱かなければならないというデメリットに勝るものとは思えなかった。
これを食べられない、これに触れられない、これがあるところに行けない。
知ってしまったら、途端に意識はおそらくその抗原を強く拒絶し、接触してしまったあかつきには多分反応がより顕著に出るようになるだろう。そして自らの行動によっては罪悪感が生まれるようにもなる。
だから知りたくないのだ。知らなければ「何となく」で済む。原因を突き止めた結果奪われる自由が、どうにも苦しい。
しかし約二週間に及ぶ慢性的な怠さを解消するためには抜本的な行動が必要であるように思われた。私は目の前のお医者に向かって渋々首を縦に振るに至った。
五日後、私は再びそのお医者の前で膝を揃えて座っていた。灰色の丸い椅子のキャスターが、私の足許でキイッと小さな音を立てた。
「結果が出ました」
お医者は机の上に置かれた一枚の紙に視線を落としながら私に言った。どうやらその紙に、二週間前に採取した私の血液から判明した情報が記述されているようだ。落ち着かない私は、所在をなくした両手をもぞもぞさせた。
「血液検査の結果、異常はないようですね。併せて行ったアレルギー検査ですが、ええと」
とりあえず、身体に大きな異常はないようなので安心したが、もはやそんなことはどうでも良くなっていた。私の興味は圧倒的にアレルギー検査に向いていた。渋りに渋っていた反動だろうか、注射器で血を抜かれたその日から、結果が気になって仕方がなかったのだ。早く結果が知りたい。
「これ、見てもらえますか」
私は机の上の紙を覗き込んだ。横向きに伸びたピンク色の棒グラフが何本も見えた。
「上から、ヒノキですね、次がスギ」
こんな風にお医者は上から丁寧に指をさしていった。私はその度に、はい、と小さく返事をした。私たちは一つずつ確認していった。
「で、最後がハウスダストですね」
「えエと」
「うん、問題なさそうですね」
ほう。
なんだか拍子抜けした感覚になった。この日から意識高い系の人間になって、アサイーとか豆とかばっかり食べて、小麦とか摂取している人間を見下す準備は出来ていたのに。でも安心した、小さく息を吐いて、お医者に念押しした。
「アレルギーとか、全然ないってことですよね」
「うん、大丈夫は大丈夫なんですが、ただね」そう言ってお医者は少し表情を曇らせた。そしてある項目をゆっくり指さした。「これわかりますか、この項目だけ少し反応出ちゃってるんですよね」
え、あるのか、私に、アレルギーが。慌ててもう一度その紙を覗き込むと、指さされたところのピンクの棒が、他の棒に比べて確かに少しだけ長い。気が大きくなって、拍子抜けした、とか思っていた先程の自分が惨めになるほど、胸の鼓動が早くなっていた。私は率直に訊いた。
「これ、何ですか」
お医者は顔を上げ、私の顔を真っ直ぐ見て、そして言った。
しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中