SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第22回「アレルギー検査」

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公開日:2023/4/27

「蛾です」

 

 ん? なんて? 私は少しだけ考えてから訊き直した。

「蛾、ですか?」

「蛾です」

「え、虫の蛾ですか?」

「はい、その蛾です」

「蛾?」

「蛾です」

「蛾」

「はい、蛾」

 大人が二人向き合って「が」のラリーを続ける。何だかとても頭が悪そうな会話に聞こえる。それにしても蛾のアレルギーとは何だ、一体どういうことなのだろう、困惑している私を見て、お医者は言葉を重ねた。

「あの、蝶々みたいなやつですね」

 いやそういうことではなくて。私は訊いた。

「触ったら駄目とか、そういうことですか」

「触るくらいなら大丈夫ですね」

 いや待ってくれ、蛾に対して触る以上のことが思いつかない。まさか食べるなんてことはないだろうし。

「例えば渋谷さんが」お医者は言った。「蛾が百匹くらいいる、物凄く狭い部屋に一時間くらい居るとしますよね、そうしたら発症します」

 居るとしませんよ。何の目的で作られた部屋ですかそれ。ヒッチコックの世界かよ。私は訊ねる。

「あの、即ち」

「はい」

「大丈夫ってことですか、ね」

「そうですね、大丈夫です」

 何だったんだこのやりとりは。私は頭を下げて診察室を出て、検査の代金を払って病院を後にした。

 数日経ってから気が付いた。いつの間にか、身体の不調は無事おさまった。

 

「蛾が百匹くらいいる、物凄く狭い部屋に一時間くらい居るとしますよね、そうしたら発症します」

 蛾を目撃する度に先生の言葉を思い出す。多分日本中探したって、こんなこと言われたことがある人間は私だけだろう。

 自分の身体に合わないものを排除できるというメリットなんかより、珍しい体験が出来たというメリットが圧倒的に勝ったので、今の私は割とアレルギー検査推奨派です。

SUPER BEAVER渋谷龍太

<第23回に続く>

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中