自分の血を使って信者を増やしていく少女るな。彼女を待ち受ける運命は!?
更新日:2023/5/4
淡々とした絵柄は物事の善悪を忘れさせる。いや、善も悪も、火神(かじん)の子として信者ビジネスに励む主人公・るなの中には存在しないのかもしれない。
『るなしい』(意志強ナツ子/講談社)は、ある宗教で代々受け継がれる「火神の子」として育てられた郷田るなが主人公である。
大人になったるなが刑務所の独房でうつむいているところから始まる物語であり、本作は結末がわかっている状態から時をさかのぼり、どうしてそうなったのかを描写する物語なのだ。
ページをめくるとるなの高校生時代に巻き戻される。
彼女は学校が終わると鍼灸院で治療をしているのだが、この治療は宗教に絡んだものだった。信者から「火神の子」と呼ばれるるなは、生理のときの血で作られたモグサで鍼灸を施し、そのモグサは高額で売られている。そのせいで「気味が悪い」とるなは同級生からいじめられているのだ。
隣の家に住む同い年の石川スバルだけは彼女の理解者だった。
ある日、ケンショーという同級生から優しくされたことで、るなは彼に恋をする。しかし「火神の子」であるるなには恋愛や性行為は認められていない。「火神の子」としてビジネスをしていたるなをケンショーは評価していたため、彼は幻滅してるなを拒む。
ショックを受けたるなは、ケンショーを自分の信者ビジネスの客にしようと決意する。それは復讐に近い感情だったのではないかと私は考えている。
冒頭で独房にいた彼女が、どのような罪で捕まったのかも明らかにされないまま、高校時代のるなの物語は続く。るなに恋愛相談をしていたはずが、るなのアドバイスによって恋愛感情を捨て、るなに従うようになる塔子、自分と会話するために女性にお金を払わせるビジネスで同級生の女性に破滅的な行為をさせるケンショーなど、高校生たちはどんどんと狂気を帯びた行動をとる。
最新の3巻では時が過ぎて28歳になったるな、スバル、ケンショー、塔子が登場する。彼らがどのように成長し、どのような職業に就いているのかも描かれている。
1巻の冒頭でるなが刑務所にいたのはなぜなのか、ヒントがあるのかもしれないが明確な答えはまだ見えない。
物語の中で、ある登場人物が次のようにつぶやく。
人はラクをするためだけに
お金を払うのではなく
もっと輝く自分になるために
苦しみにさえお金を払う
怖いのは、これがるなの宗教に限ったことではなく、なんらかのビジネスで顧客になる人の心情をも表している、再現性のある言葉だということだ。
序盤のるなは独房にいた。なぜなのかはまだわからないが、それは信者ビジネスの行き着く先なのだろう。カルト宗教の光と闇は、これからより濃厚なものになっていくはずだ。
一度読み始めたら目が離せない、中毒性のある漫画である。
文=若林理央