チャールズ国王の戴冠式で沸く英王室。いまわかるエリザベス女王が遺した伏線

社会

公開日:2023/5/6

英国女王が伝授する70歳からの品格
英国女王が伝授する70歳からの品格』(多賀幹子/KADOKAWA)

 5月6日(土)のチャールズ国王戴冠式が世界で注目を集めるなか一冊の本が刊行された。英国王室ジャーナリスト・多賀幹子氏の最新作『英国女王が伝授する70歳からの品格』(KADOKAWA)である。昨年9月8日に96歳で崩御したエリザベス女王の⾦⾔とフォトスナップをまとめたメモリアルブックだ。本書から一部を抜粋し、次世代へと受け継がれる“王室の品格”を紹介しよう。

「快適には程遠いわね」

2012年5月9日、86歳。在位60周年記念で戴冠式と同じ王冠をかぶり、議会の開会演説をする女王。
2012年5月9日、86歳。在位60周年記念で戴冠式と同じ王冠をかぶり、議会の開会演説をする女王。

 2018年、女王は王冠についてのインタビューを受けた。前の机には王冠が置いてある。「王冠は重いですか」と聞かれて、下を向くと首が折れそうな重さなので、読むべき冊子を手で持ち上げていると明かす。「1キロはあるかしら(3ポンドを約1キロと換算)。とても重いわ」。そして上記の言葉が出た。しかも王冠は前後がわかりにくいとも言う。君主の象徴である重要な王冠をジョークのネタにする女王。率直な飾らない人柄がしのばれる。

「リストなんて気にしないで、あなたたちの友人を優先すればいいのよ」

2011年4月29日、85歳。ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式に出席。胸にはラバーズ・ノットブローチが。
2011年4月29日、85歳。ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式に出席。胸にはラバーズ・ノットブローチが。

 2011年ウィリアム王子とキャサリン妃(当時)の結婚式に先立ち、700人と決まっている招待客のリストを見たウィリアム王子は、驚いた。ヨーロッパ王室の遠い親戚など知らない人ばかりで埋まり、自分の友人たちを招く余地がない。女王に相談すると、女王はこう言って励ました。ロイヤルウエディングの縛りなど気にしないでと背中を押した。ウィリアム王子は女王の優しい理解ある言葉がうれしかったと述べている。

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「良い思い出とは、幸せの二度目のチャンスです」

1961年11月、35歳。英連邦のシエラレオネを訪問中の女王。
1961年11月、35歳。英連邦のシエラレオネを訪問中の女王。

 思い出の大切さを教えている。良い思い出は、思い出すだけでもう一度幸せになることができる。たとえ過ぎ去った昔のことでも、楽しかったことは、思い出せばまた笑みが浮かび、喜びがよみがえる。女王は、楽しかった思い出をたくさん胸に秘めておられたのだろう。辛い悲しい過去ではなく、楽しいことを覚えていたいとのメッセージでもあるようだ。

「幸せな結婚の秘訣は、互いに違う趣味を持つことです」

1953年、巡洋艦から写真撮影する27歳の女王と32歳のフィリップ殿下。
1953年、巡洋艦から写真撮影する27歳の女王と32歳のフィリップ殿下。

 女王とフィリップ殿下の結婚生活は殿下の死去で終わるまで70年以上続いた。お二人の仲睦まじい夫婦生活はよく知られている。それでも、一時、殿下には女優との浮気のうわさが流れ、女王も一部承知していたと言われる。しかし、女王が見て見ぬふりを貫くと、殿下は女王の愛に応えるようになった。夫婦は相手のすべてを把握する必要はなく、違う方向を向き異なる時間を持つこともまた必要という女王のアドバイスである。

「よかった。メーガンは来ないのね」

2021年4月、94歳。99歳で死去した夫フィリップ殿下の葬儀に参列。
2021年4月、94歳。99歳で死去した夫フィリップ殿下の葬儀に参列。

 2021年4月9日にフィリップ殿下が亡くなり、葬儀にメーガン妃が渡英するかどうか、女王は気にしていた。数日すると、リリベットちゃんの妊娠中で「医者から止められた」とのニュースが入った。それを知った女王は思わずこうつぶやいたのだった。珍しく女王の本音が出たとして広まり、Tシャツに大書され販売されたりした。女王は静かに夫を弔いたくても、メーガン妃が出席すれば、彼女に焦点が当たって騒ぎになる。彼女が来ないことを知って、ふと女王が漏らした一言だった。

「チャールズが国王になるときは、カミラは王妃になることを望みます」

2019年10月15日、ウエストミンスター寺院の750周年記念礼拝に出席した93歳の女王と72歳のカミラ夫人。
2019年10月15日、ウエストミンスター寺院の750周年記念礼拝に出席した93歳の女王と72歳のカミラ夫人。

 女王は在位70周年の記念祭時に、カミラ夫人は王妃になるように望むと明言した。夫人がチャールズ皇太子と再婚したときは将来は王妃にならないとの約束だったが、彼女の勤勉な公務に取り組む姿勢や再婚後のスキャンダルゼロの生活ぶりから判断した。将来、彼女の称号については、国民の間で必ずもめると予想していた。チャールズ国王のスムーズな船出のためにも、自分の「一言」が決め手になるよう生前に伝えた。夫人のことは嫌っていた時期もあったが、私的な感情に流されず、王室にとっての最善策を発信した。

【著者プロフィール】
多賀幹子(MIKIKO TAGA)
東京都生まれ。お茶の水女子大学文教育学部卒業。企業広報誌の編集長を経てフリーのジャーナリストに。元・お茶の水女子大学講師。1983年よりニューヨークに5年、95年よりロンドンに6年ほど住む。女性、教育、社会問題、異文化、王室をテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演・講演活動などを行う。公益財団法人 北野生涯教育振興会 論文審査員。著書に、『孤独は社会問題』(光文社新書)、『ソニーな女たち』(柏書房)、『親たちの暴走』『うまくいく婚活、いかない婚活』(以上、朝日新書)などがある。
https://studywalker.jp/lecturer/detail/985/

※本記事は多賀幹子著の新刊『英国女王が伝授する70歳からの品格』から一部抜粋・編集しました。

作・取材・文=多賀幹子/写真提供=アフロ、AP/アフロ、 ロイター/アフロ、 代表撮影/ロイター/アフロ