大手企業に就職しても女性はお茶汲みとコピー取り。ジェーン・スーが敬愛する13人の女性たちは組織のなかでどう生き抜いたか

文芸・カルチャー

公開日:2023/5/11

闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由
闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(ジェーン・スー/文藝春秋)

 ジェーン・スー氏の『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)は、スー氏が敬愛する13名の女性へのインタビュー集。登場するのは、エッセイスト、美容ジャーナリスト、俳優、タレント、脚本家、漫画家など。いずれも現在進行形で大車輪の活躍を見せる女性ばかりだが、そこに至るまでには想像を絶する受難の季節があった――。

 本書の内容は、セレブたちのサクセス・ストーリーではない。むしろ、事業や開発や創作に失敗して一度零落し、絶望のどん底で苦しんだ女性たちの話が並んでいる。マスコミから猛バッシングされたり、膨大な額の借金を肩代わりさせられたり、結婚後に義母と真っ向から対立したり。特に、女性であるというだけで、組織のなかで割を食った女性のなんと多いことか。正直、ここまで酷いとは驚嘆を禁じ得ない。

 例えば、料理研究家の浜内千波は大手企業に就職したが、社内での女性の地位の低さに驚く。男女雇用機会均等法が施行される前の話ではあるが、結局、女性がやることはお茶汲みとコピー取り。独立後、料理研究家と名乗った彼女だが、料理は女が家でやる仕事という風潮がまだまだ支配的だった。

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 俳優でタレントの柴田理恵は、お笑いの世界では、女性は男性の添え物のようようだったという。特に、男女両者が会議で決めた事案が、実は会議のあとの男だけの飲み会で翻えさせられていたことに項垂れる。

 漫画家の一条ゆかり氏もまた、波瀾万丈の人生を送ってきた。父が若くして事業に失敗し、一家は一条が産まれた3日後に夜逃げ。家族は絵に描いたような極貧生活を送ったという。だが彼女は、自分の幸せは自分で決めると誓い、努力を怠ることはなかった。

 当時少女漫画でタブーだったキスシーンを描いた一条氏は、読者のアンケートに定期的に目を通し、異なるタイプの作品を第一線で描き続けてきた。その筆が鈍くなる気配などまるでない。彼女の漫画家としての矜持やプライドからは、男女問わず多くを学べるだろう。

 一条氏らとベクトルが異なるが、働く女性たちにとってのロールモデルになりそうなのは、タレントの山瀬まみ氏へのインタビュー。山瀬氏は、ニュース番組やクイズ番組に出演した際、分からないことは分からないと率直に言ってきた。いわゆるおバカタレントの元祖的な存在とも言える彼女だが、腹の中には周到な戦略があった。

 具体的に言うと、山瀬は事前にパネラーのラインナップに目を通して、自分に求められるものを微細にチェック。場の空気を察知し、それに沿ったコメントをする。良い意味で、したたかだったのである。プロレスラー時代の北斗晶も、自分がなぜこの試合にブッキングされたか、その意味を考慮してマッチに臨んだという。

 本書はインタビュー集ながら、ケーススタディとして実用的に読むこともできる。何が彼女らを成功に導いたのか、どん底に落ちた時にどのような対策や対処がなされてきたのか。具体的な処方箋が本書には記されている。

「私たちにはもっともっと、社会に求められ、功績を築いた女たちの物語が必要だ」とスー氏は言う。その通り、前例が多ければ多いほど、自分に同じことが起きた時に、本書から学んだことを実践、行動に移すことができるからだ。

 それにしても、スー氏の文章の上手さには恐れ入った。Q&Aではなく、女性たちの発言を地の文で挿み込む形を採用しているのだが、これはかなり構成が難しい。自分の主観を交えながらも、女性たちの想念を際立たせた構成も、実によく練られている。女性たちと自分との接点を探りつつ、本音を引き出すあたり、インタビュアーとしても優秀なことが分かる。いちライターとして、その才能に「参りました」と言わざるをえない。

文=土佐有明