原正人氏による講演『翻訳者が語る 世界文学への旅3 バンド・デシネで読み解くフランス文学と文化』を日比谷図書文化館にて開催しました。 (小学館集英社プロダクション)

文芸・カルチャー

公開日:2023/5/10

日比谷図書文化館では、日比谷カレッジと題し、ビジネススキルアップや江戸・東京の歴史文化、アートなど多彩なテーマで、講座やセミナー、ワークショップなどを開催。さまざまな「学び」と「交流」の場を創出しています。(引用:千代田区立図書館ホームページ)

千代田区立日比谷図書文化館を運営している株式会社小学館集英社プロダクションは、2023年4月20日(水)に、フランス語翻訳家で、バンド・デシネ翻訳の第一人者である原正人氏を講師にお招きし、講演「バンド・デシネで読み解くフランス文学と文化」を開催しました。

原正人氏のバンド・デシネの蔵書(一部)

 

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フランス語圏のマンガ、バンド・デシネ

バンド・デシネとは、略称BDとも呼ばれるフランス語圏のマンガのことをいい、現地フランスでは「第9の芸術」とも呼ばれています。

アーティスティックで芸術性の高い作品から日本のマンガのようなタッチの作品まで様々なタイプの作品があり、日本でもすでに、カミュの『異邦人』やサン=テグジュペリの『星の王子さま』など、有名な文学作品のバンド・デシネ版が邦訳されて販売されています。

また近年では、フランス語でバンド・デシネを描く日本人作家も増えており、そうした作品が日本へ逆輸入されているという現象も起こっているそうです。

講演の冒頭、「バンド・デシネを知っていますか?」という原氏の問いかけに対し、およそ8割の参加者が手を挙げておりました。バンド・デシネという文化が浸透し始めていることがわかります。

原正人氏によるバンド・デシネと日本のマンガの違い解説

フランス語圏ではバンド・デシネが読み聞かせなどに使われ、国語教育の入口の役割を担っている事例もあり、コミカライズされた文学作品の多さからしても、娯楽でありつつも、文学とマンガがゆるやかに連続している印象がある点が、バンド・デシネが日本のマンガと文化的に異なっている大きな点だといいます。

フランス文学を原作としたバンド・デシネでは、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』やアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』、アルベール・カミュの『異邦人』などが日本語に翻訳されていますが、現地でははるかに多くのフランス文学作品がバンド・デシネ化されていて、フランス文学に留まらず、世界中の文学作品がバンド・デシネ化されているそうです。

文学原作でなくても、「文学的価値のあるバンド・デシネ」も多く、それらはしばしば英語の「グラフィック・ノベル」をもとに「ロマン・グラフィック」と呼ばれているそうで、マルジャン・サトラピの『ペルセポリス』やエマニュエル・ギベールの『アランの戦争』、エティエンヌ・ダヴォドーの『ワイン知らず、マンガ知らず』を紹介されていました。

また、日本の一般的な少年マンガ・少女マンガのサイズが112㎜×174㎜の小B6判と呼ばれるサイズに対し、バンド・デシネはA4判が一般的なサイズとされており、ページ数は48ページもしくは68ページと、パッと見ただけでは絵本のように見える版型です。

とはいえ、原先生のコレクションを見てみると、日本のマンガのようなものから絵本のようなものまで、全ページフルカラーからモノクロまで揃っており、ストーリーや絵柄だけでなく、版型までもが多様性に富んでいることがわかります。

さらに、あるバンド・デシネを邦訳する際に気づいた、面白いエピソードも披露してくれました。

ダヴィッド・ブリュドムの『レベティコー雑草の歌』の装丁を決める際、表紙を飾るキャラクターが、フランス語版ではストーリー上全く関係のない人物が描かれていたそうです。日本のマンガではあり得ない、たったひとコマの陰にたたずむ男が表紙を飾っているという、バンド・デシネならではの自由さに、原氏はとても驚いたといいます(日本語版では、主人公にデザインを変更して出版されたそうです)。

多くの作品の翻訳を手掛けてきた原氏ならではのエピソードに、参加者たちが「うんうん」としきりにうなずいている様子が見られました。

『翻訳者が語る 世界文学への旅3 バンド・デシネで読み解くフランス文学と文化』の講演の様子

 

世代を超えて愛される多様なバンド・デシネのおすすめ作品

参加された方の多くはバンド・デシネをご存じでしたが、講演後に原氏の特別蔵書が展示されたスペースをのぞいてみると、熱心にバンド・デシネをめくる方であふれていました。

アンケートでは、およそ9割の方に「満足」と回答いただいたそうです(『大変満足』・『満足』と回答いただいた方の割合)。

ある女性は、「今までマンガを読んだことがなかったのだけど、この絵柄なら私でも読めそう」とおっしゃって、エティエンヌ・ダヴォドー氏の『ワイン知らず、マンガ知らず』を手に取ってじっくりと読まれていました。

ここで、当日講師の原正人氏にお持ちいただいたおすすめの蔵書を、一部ご紹介します。

  • ブノワ・ペータース著/フランソワ・スクイテン画/原正人訳『闇の国々』(小学館集英社プロダクション)

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  • エリザ・スア・デュサバン著/原正人訳『ソクチョの冬』(早川書房)

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  • マルジャン・サトラビ著/園田恵子訳『ペルセポリス』(バジリコ)

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  • ダヴィッド・ブリュドム著/原正人訳『レベティコー雑草の歌』(サウザンブックス社)

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  • ジョアン・スファール著/アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ原作/池澤夏樹訳『星の王子さま バンド・デシネ版』(サンクチュアリ出版)

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ぜひリンクから飛んでみてくださいね。

世代を超えて愛されるジャンルへと育ちつつあるバンド・デシネ。

これからどんな作品が日本でも見られるのか、とてもワクワクしますね。