【猫好き必読】猫は寒暖計⁉ 猫の自由気ままな"仕草"ではなく、"猫を見る人間"を歌にすることで猫をより鋭く捉える猫短歌集
公開日:2023/5/18
愛を知りたいなら猫を飼いましょう それでダメならもう知りません
仁尾智の猫短歌集『いまから猫のはなしをします』(エムディエヌコーポレーション)の一首目に置かれている歌である。仁尾が短歌をつくり始めて19年目に出版された本書は、猫を題材にした短歌が50音順に114首収録されている。過去の著作にはイラストレーター小泉さよとの共著『猫のいる家に帰りたい』(辰巳出版/2020年)、『これから猫を飼う人に伝えたい11のこと』(辰巳出版/2021年)がある。猫との温かく切ない日々が綴られた短歌には、文字通り猫好きのファンが多い。
仁尾の猫短歌の特長は、猫に対する自身の感情を客観視しているような、一歩引いたような歌であることだ。2023年4月に双子のライオン堂で行われたトークイベント「第二回 短詩、どうなってるの?」(ゲスト仁尾智×高松霞)で、仁尾はこのように発言している。「猫は可愛いんですよ。だから、猫が可愛いと言うことは、猫は猫だと言っているのと同じなんです」「読者は猫短歌を読んで、猫を見ているようで、人を見ている。猫を見る人の視線をなぞっていると思っているんです」猫ではなく、猫を見ている人間を短歌にする。たとえばこのような歌だ。
縮んだり伸びたり丸まったり 猫は寒暖計として勤勉だ
この歌の主体は、猫の仕草を「寒暖計として勤勉だ」と捉えた人間である。猫にはただ「縮んだり伸びたり丸まったり」させることで、彼らの自由気ままな姿を表現している。また、一読してすぐに歌の意味が理解できるよう易しく作られており、この「わかりやすさ」も仁尾の猫短歌の人気の理由のひとつだろう。
仁尾は保護猫活動をしており、現在5匹、多い時で11匹と生活していたそうだ。いずれの猫も、仁尾家の庭に迷い込んできたり、ゴミ収集所に置き去りにされているのを保護されたりしている。飼っていた猫が減った。ということは、つまり、彼はそれだけ看取ってもきたのだ。
幸せは前借りでありその猫を看取ってやっと返済できる
残された者になるのを前提に猫との日々を楽しんでいる
本書には挽歌(死を悼む短歌)が多く、TwitterやAmazonレビューでも「むかし飼っていた猫を思い出した」「ちょっと笑ってちょっと泣ける」というコメントが散見される。かつて猫を飼っていた人にとって、仁尾の猫短歌を読むことや、たとえば猫短歌に触発されて自身で短歌を詠んでみることも、ひとつのグリーフケアなのかもしれない。猫を飼うことで得られる感情は、楽しさや愛おしさだけではない。切なく苦しい別れと、そこから立ち直るまでを含めて、猫を飼うということなのだ。
猫短歌集『いまから猫のはなしをします』は、猫を飼っている人、飼っていた人、飼おうとしている人にとって、その愛を支える一冊になるはずだ。
文=高松霞