6年ぶりとなるアニメSEASON2は「学院篇」に突入! 少女と人ならざる魔法使いとの愛と成長の物語『魔法使いの嫁』
公開日:2023/5/12
※本記事は作品の内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
2023年春、英国を舞台にした異類婚姻幻想譚『魔法使いの嫁』(ヤマザキコレ/マッグガーデン)の大きなニュースが2つ飛び込んできた。
まずひとつめはTVアニメ「SEASON2」のスタート。「SEASON1」は作画、構成、シナリオ、音楽、すべてがハイクオリティで原作ファンから絶賛された。6年ぶりとなるファン待望の続編で、期待にたがわぬ完成度で絶賛放送中である。
そしてもうひとつは最新単行本19巻の発売だ。アニメ「SEASON2」の原作部分であり、10巻から始まった「学院(カレッジ)篇」が、この巻で一区切りとなった。
本作は少女・チセと、人ならざる異形の魔法使いとの愛と成長の物語だ。「学院篇」では、チセが学生になり、人とのかかわりを増やしていく様子が描かれる。
本稿では「学院篇」の始まり部分を紹介していく。アニメのみを視聴していた人には予習となり、原作を読んでいる方には復習になる。なおストーリーの内容を含んでいるので、お読みいただく際は注意してほしい。
人ならざる魔法使いの嫁になったのは「夜の愛し仔」の少女
身寄りがなく、生きる希望も術も持たなかった15歳の少女・羽鳥智世(ハトリチセ)。彼女が闇の競売会に自らを出品し、買われたところから物語は始まる。
チセは“夜の愛し仔(スレイ・ベガ)”だった。それは魔法や魔術を操る者たち垂涎の「無限に魔力を生み出せる」特別な資質を持つ存在だ。そんな彼女を落札したのは、人ならざる異形の魔法使い、エリアス・エインズワース。彼はチセを「弟子」として、そして「花嫁」として招き入れた。
彼女は徐々に自身の特別な資質を認識していく。そしてエリアスという“ヒト”を理解し始めた。エリアスもまた彼女と出会い、かかわることで人間を理解し、自らも成長していく。
このふたりの――異類の愛を中心に、チセを待ち受ける苛烈すぎる運命、悠久の時を超えた登場人物たちの生き様が描かれるストーリー。さらに伝説や神話を下敷きにした世界観。それを表現する緻密かつ美麗な作画。抽象的だが巧みに芯を食った台詞回し。未だ明らかにならない何年か越しの伏線……。言い尽くせない魅力に満ちた物語は、チセが新たな一歩を踏み出す「学院篇」へと続いていく。
チセは魔術師たちの「学院」で成長し、陰謀に立ち向かう
「学院」からチセに対し「通わないか」という申し出があった。たしかに彼女はティーンエイジャーであり、学生であってもおかしくはない。ただし「学院」とは普通の学校ではなかった。
「学院篇」では、魔法使いの見習いであり嫁であるチセが魔術師の卵たちと出会い、交わっていく。
この世界にはエリアスのような、人ならざる“隣人”の力を借りて魔法を操る「魔法使い」と、魔術という技術によって魔法と酷似した結果を生む「魔術師」がいる。そんな魔術師を育てる専門機関であり、魔術師たちの相互扶助組織でもあるのが「学院」だ。彼らは“夜の愛し仔(スレイ・ベガ)”かつ、強力な呪いをその身に受けたチセを研究させてほしい、その見返りとして、解呪への協力と、チセの「学院」の授業の参加許可を差し出してきた。
チセは、それまでの出来事で「自分を差し出すこと」しかできなかった。それは無知だったからだ。結果として周囲を傷つけたことを悔いた彼女は、何かを知り、学ぶべきだと思い、大英図書館の地下深くにある「学院」を訪れた。その傍らには臨時教師として招かれたエリアスもいる。
そこで彼女が出会ったのは、個性的な学友たちだ。「7つの盾」と呼ばれる7つの魔術大家の子ども。“異類”の子ども。ワケありの子ども。彼らは、それぞれの立場や思いを心に秘めて集まってきていた。
チセはこれまでに魔法使いたちと、妖精や精霊や神といった“隣人”たちとのかかわりの中にいた。だが「学院」の聴講生という立場を得た彼女は、同年代の学院生たちと交わったことでより深く、色々と考えられるように成長していく。そして彼女を見守るエリアスもまた、自身の変化を感じ始める。
ただ「学院」は子どもたちが中心とはいえ、魔術師の世界である。ふたりが“新生活”を始めた裏である陰謀が進行していた。事件は、チセたちがやって来てまもなく「学院」の保管室に収められていた禁書が盗まれていたことから始まる。いったい誰が何のために?
チセたちは、さまざまな思惑が渦巻き、愛憎の念が入り交じった血生臭い争いに否応なく巻き込まれていく――。
以前から張られていた伏線や、すでに登場した人物の身内が登場するなど、見どころは書ききれない「学院篇」。実に情報量が多く、物語世界の解像度が高まっていくように感じた。本稿であらすじをたっぷり書いたつもりだが、それでも全体像は掴めないだろう。この先はぜひ読んでみてほしいのだが、今から全19巻を読むのはハードルが高いだろうか?
かつて私もそう思っていた。『魔法使いの嫁』は、知ったときにはとうに大ヒットしていた話題作で、すでに巻数も多く「少しずつ買おう」と決めた。はずなのに……アニメを見ているうちに思わずコミックを買い揃えてしまっていた。それこそ魔法にかかったように、である。
文=古林恭