読み聞かせにおすすめ! 『もうじきたべられるぼく』著者による新作は、他者へのリスペクトが生まれる絵本
更新日:2023/7/7
TikTokの読み聞かせ動画が300万回再生され、昨夏、満を持して出版された絵本『もうじきたべられるぼく』。牛として生まれ、「たべられること」を受け入れた“ぼく”が、最後に一度だけ、小さかった頃にやさしくしてくれたお母さんに会いに行く物語。お母さんをひとめ見た瞬間の子牛の思い、お母さんの行動などに、涙を流さずにはいられないと話題になりました。
そしてこの春、このヒット作の絵を手がけたイラストレーター、はせがわゆうじさんによる新作『ふたごパンダとおともだち』(中央公論新社)が登場。“ぱんだもん”という人気キャラクターを手がけるはせがわさんが描く「ふたごパンダ」シリーズ第2弾で、文章を担当するのはシンガーソングライターの西島三重子さん。
見ているだけで癒されるイラストや、やさしい気持ちになれる言葉がつめこまれ、大人もまたハッとさせられます。
親パンダのおなかに乗ったふたごパンダ。じっと見つめる先にいるのはカバの親子です。「おおきくても ちいさくても カバはカバ」。どうやらパンダの親子は、自分たちとは違ういきものたちの観察をして回っているようです。
カンガルーを見たふたごパンダは「ボクのおかあさんにも キミのおかあさんみたいに おなかのポケットがあったら よかった」とうらやましく思っている様子。
さっきまでふたごをフカフカのおなかに乗せていた親パンダは、後ろ姿を見せています。ふたごパンダからそんなふうに言われて拗ねてしまったのかも?
ふたごパンダは、そうは言ってもやっぱり親パンダのことが大好き、という様子で、親パンダの背中にむぎゅっと顔をくっつけたり、毛をぎゅっと掴んでいたりしています。
ちょっとした仕草から心模様が伝わるようで、セリフが書かれていない親子パンダの気持ちを想像するのもこの絵本の楽しさだと感じました。
とちゅうから親パンダはいなくなり、今度はナマケモノやネコと出会うふたごパンダ。
「なまけもの」と揶揄されやすいナマケモノは、自分で時間のつかい方を決めているだけ。ネコはよく「きまぐれ」と言われるけど、ただ自由なだけ。ここにはそんなメッセージが書かれています。
彼らの特徴はネガティブに取られることもありますが、見方を変えてみれば、すごいことなのかもしれません。
親パンダから離れ、いろいろないきものと出会いながら、生きる上で大事なことを学んでいく、ふたごパンダ。その姿は、社会の中でたくさん経験を積みながら成長していく子どもたちの姿と重なります。
他者と自分の間には、同じところもあれば違うところもあって、そこから学べることはたくさんあるはず。本書を読んだ子どもたちがそんなことを感じ取ったのなら、他者をリスペクトする気持ちが生まれ、周りの人たちに対してもっとやさしくなれるかもしれません。
親子で楽しみ、長く読み聞かせたい絵本
絵ハガキなどのグッズも人気のはせがわゆうじさんのイラストは圧倒的なかわいさで、手に取るだけでも癒されます。6歳の息子に読み聞かせたところ、いきものたちからのメッセージをすなおに受け止めています。ハッとさせられたのは、先入観だけで物事を判断してしまう、頭のかたい親のほうでした…!
小さなお子さんはかわいらしい絵に引き込まれ、他者と関わるようになった年齢のお子さんは、自分事としてとらえることができそうな絵本。年齢やシチュエーションによって受け止め方が変わりそうで、手元に置き、子どもの成長とともに長く読み聞かせたい一冊だと感じました。
文=吉田あき