大人気シリーズ『都会(まち)のトム&ソーヤ』20周年! 20巻目の内容は一昨年の実写映画に触発された!? はやみねかおるさんインタビュー
公開日:2023/5/21
今年でデビュー33周年を迎える児童小説家のはやみねかおるさん。著作の累計発行部数は900万部を突破し、現役の子どものみならず、かつて子どもだった読者を今なお魅了し続けている。代表作のひとつであり、一昨年には実写映画化もされた『都会(まち)のトム&ソーヤ』は、今年で20周年。あわせて20巻刊行という節目にあわせて、はやみねさんにお話をうかがった。
(取材・文=立花もも 撮影=中 惠美子)
実写映画を観て思いついた、内人と創也の再対決
――『都会のトム&ソーヤ』刊行20周年おめでとうございます。先日発売された新刊もちょうど20巻ということで、毎年、新作を刊行し続けていることになりますね。
はやみねかおるさん(以下、はやみね) ありがとうございます。ただ、20巻と言いつつ、外伝として16.5巻を刊行したり、上下巻にしたりしているので、自分としてはあんまり数字にこだわりはないんですよ。
――じゃあ、今回のサブタイトルが「トムvs.ソーヤ」で、主人公の内人と創也の対決だったのも、満を持してという感じではない?
はやみね ですねえ。きっかけは、一昨年に実写映画が公開されたことです。実写化されたのは1巻の内容、つまり僕が20年も前に書いたものなんで、内容の細かいところはすっかり忘れてしまっていて。「あ、そっか。こんな話やった」と新鮮な気持ちで観させていただくなかで、今の2人が同じようなシチュエーションにおかれたらどうするだろう? と思いつきました。
――自称「どこにでも居る平凡な中学2年生」である内藤内人が、学校始まって以来の秀才で大財閥の御曹司であるクラスメート・竜王創也に呼び出された「砦」で、創也のしかけたトラップを図抜けたサバイバル能力で突破していく。それが第1巻の冒頭で、2人の出会いでしたが、今回はまた違うシチュエーションで創也のトラップに内人が挑みます。書いていて、20年の変化を感じる部分はありましたか?
はやみね そうですねえ。創也はずいぶんと成長したなと思います。内人はあんまり変わっていない……というか、いつの時点でも「昔からこんなふうだったし、たぶんこれからもこのままいくんやろう」というタイプだと思うんですよ。でも創也の場合は、内人と出会うまでは友達もいなかったし、人間としてちょっと妙なところがあった。それが、内人と遊んでいるうちに、だんだんアホな中学生に寄ってきたな、と感じるのが親目線でうれしいですね。もともと、なんだかんだと抜けたところのあるやつなので。
――個人的には、新刊を読んでいて、創也が当たり前のように内人を頼るようになっているのがいいな、と思いました。誰かを頼るのって、とくに創也のようなタイプには、勇気がいることだと思うので。
はやみね ああ、言われてみればそうですね。意識せずとも、自然とそうなるように書いてしまっている、というのが、創也が成長した証のような気もします。あと、内人のことは書きながら「こりゃあモテへんなあ」と思っていました。
――どういうところでそう思うんですか?
はやみね どこやろ? 僕の通っていた高校は共学だったんですけど、男子クラスに所属していて、男子ばっかでつるんどったんですよ。でも修学旅行なんかにいくとね、男女混合クラスの女子から呼び出される奴もいるわけです。男だけでトランプをしながら「来た来た」「行ったれよ」なんて言うと、そいつも一応は連れの手前、「ええんや、別に」なんて言う。それでも「せっかくの修学旅行なんやから」と1人2人送り出したあと、残るのはモテない奴らだけになるわけです。で、「しばらくあいつらとは口をきかんとこうか」みたいなことを言いながらトランプをしているのが内人や自分らみたいな男子、というイメージなんです。
――なるほど(笑)。
はやみね なんでモテへんのかって言われたら、モテへんからとしか言いようがない(笑)。内人はそのなかでも、絶対に最後までトランプをやってるでしょうね。
全はやみね作品の中心に内人がいて、物語はひとつに収束していく
――そういう意味ではたしかに、内人はアホな中学生男子そのままって感じなんですけれど、あんなサバイバル能力をもちながら自分を平凡だと信じて疑わないところをふくめ、実は創也よりも変わったところがありますよね。
はやみね そうですか?
――『僕と先輩のマジカル・ライフ』の主人公もそうですが、はやみねさんの書く「普通」で「平凡」は、それこそがとても得難いことなんだと教えてくれるようで、とても好きです。
はやみね なるほど。僕としては、「平凡」や「普通」といえば、ああいうイメージなんですよね。『都会トム』に関していえば、もともと、完全無欠な探偵として創也を主人公に据えて、平凡なワトソン役として対比的に内人を描き、学校で起きる事件を解決させようと思っていた。ところが、1巻で砦のシーンを書き始めたとき、いきなり内人が学生服を脱いで、サバイバル能力を発揮しだすもんだから、僕もびっくりして。「これ、どうなるんやろう?」と自分でも戸惑いながら勢いで書いたものが、担当編集者のOKをもらえて、刊行されることになってしまった。しかもそこには「1巻」と書いてあるから「あ、続くんや」と思って。
――それで20年。しかも主人公はどちらかというと内人ですし、はやみね作品の主人公たちを繋ぐ物語である『令夢の世界はスリップする 赤い夢へようこそ 前奏曲』でも、内人が中心に据えられています。
はやみね 「内人が中心になってくんやなあ」と確信したのは最近のことですが、『都会トム』の8巻で〈世界はさめない夢をみる〉という言葉が出たときから、「ああ、自分はこの言葉に向かって今まで書いてきた物語を全部まとめていかなあかんのやな」という意識はもっていました。だから、以前のインタビューでもお話ししましたが、引退までの残り6年をかけて、『都会トム』を中心にすべてをまとめあげていこうと思っています。
――以前も少しうかがいしましたが、全作品の登場人物たちが一つの世界で繋がり、一つの物語として「終わり」を迎えると同時に引退する、という構想は、いつから抱いていらっしゃったのでしょう。
はやみね 最初に65歳で引退しなければ、という気持ちがありました。そして、それまでに、物語もきちんとたたまなあかん、と。ではどうすればいいのか、と考えたときに、一つネックだったのが年齢差だったんですよね。サイン会とかでもよく「このキャラクターとこのキャラクターはどれくらい年が離れているんですか」って聞かれることが多くて、困ったなあと思っていた。でもあるとき、「そうか、パラレルワールドとして描けばいいんだ」と思いついた。それで、時空をスリップする令夢(れむ)という女の子が生まれたわけです。来年は、夢水清志郎が登場する「令夢」シリーズの新刊が出ます。
――めちゃくちゃ読みたい……!! でも、ちょっと気になるのが、はやみね作品の登場人物ってめちゃくちゃ多いじゃないですか。
はやみね 多いですね。今度出す「怪盗クイーン」シリーズの新刊は、主要人物だけでもめちゃくちゃ多い。そいつらを締めで全員登場させて、どうなるかわからんけど収めなきゃいかん、というのはもう本当に頭をかきむしりたくなるほど大変でした。
――しかも出てくる人たちみんな言うことを聞いてくれなそうですしね。
はやみね 全然聞かないです。あれには本当に困りました。そういう意味ではまだ「令夢」シリーズを書いているときのほうがラクです。
――そうなんですね(笑)。はやみねさんはいったい、あの膨大な個性豊かなキャラクターをどう管理しているんだろうと思っていたので、本当に一つの物語として収拾がつくんだろうか?というのは気になるところです。
はやみね 僕にとってキャラクターたちはみんな、アパートの住人なんですよ。僕は、大家。きっちり家賃を納めてくれる奴もおれば、ふらーっと旅に出ていなくなってしまう奴もおる。だから、僕の手に負えん、管理できへん奴は、今はとりあえず出てくるな、って感じで、そのつど必要に応じて、手伝ってくれそうなキャラクターを呼びこんでいるって感じです。
――ちょっとこの作品に出てみてくれない?と。
はやみね そう。それぞれに場面を渡して、役割を果たしてもらって、できない奴には強制しないっていう。『都会トム』の19巻に、『バイバイ スクール』のコウくんが登場したみたいにね。ときどき、ああやってパラレルワールドにしなくても、自然と登場人物たちが出会えることもあるんです。そもそも『バイバイ スクール』は夢水清志郎の登場する物語でしたしね。
――そうなんですか!?
はやみね 第2話の「幽霊バスのなぞ」をいちばん最初に書いたとき、事件を解決したのは夢水でした。でも、『バイバイ スクール』を書くときはまだ「夢水」シリーズを書き始める前だったし、登場しないほうがいいなと思ったので、夢水に「ちょっと事件だけ貸して」とお願いし、どいてもらったんです。
――なるほど~!! でもそう考えると、物語をたたんでいく中心にいるのは教授(夢水)でもよかった気がしますね。なぜ、内人だったのでしょう?
はやみね たぶんいちばん読者に近いからじゃないでしょうか。夢水もクイーンも、読者からはいちばん遠い存在ですからね。中学生で、物語の中で起きるいろんな危機に対応できるキャラといえば内人になるのかな、と。やっぱり中学生2人のコンビ、というのが、いちばん読者も共感しやすいのかなと思います。