「知られざる発達障害」ともいわれるDCD。「食べこぼしが多い」「靴ひもが結べない」など、子どもの不器用さが気になるなら
公開日:2023/5/19
「なわとびがうまく跳べない」「ブランコがこげない」「ドッジボールでいつも標的になってしまう」など、日頃からお子さんの極端な運動能力不足に不安を感じている親御さんはいないだろうか。「そのうちできるようになるか」と見守っていても一向に改善せず、どんどんお子さんが自信をなくしていってしまう…もしもそんな状況に陥っているとしたら、一度「DCD」(発達性協調運動障害)を疑ってみるといいのかもしれない。
DCDとは発達障害のひとつで、日常生活に支障が出るほどの「手先の不器用さ」や「運動能力の低さ」という特性があらわれるもの。人口の5~6%はこのDCDを抱えているといわれており、1クラス34人の教室であれば、その中の1~2人はDCDということ。決して珍しい存在ではないのだが、実際にはその存在はほとんど知られていない。
そんな「知られざる発達障害」であるDCDだが、このほど豊富な事例でわかりやすくDCDを解説してくれる本が登場した。青山学院大学教授であり小児精神科医でもある古荘純一先生による『DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント』(講談社)だ。
本書によれば、以下のような症状はDCDの子どもたちによく見られるものだという。
〈幼児期〉
●食べこぼしが多い
●積み木遊び、片づけが苦手
●クレヨンや鉛筆をうまく持てない
●三輪車にうまくのれない
●ブランコがこげない
●スキップができない
●お遊戯がぎこちない
〈学童期〉
●球技(投げる・捕る)がうまくできない
●靴ひもが結べない
●着替えや身支度に時間がかかる
●文字がうまく書けない
●楽器がうまく扱えない
●筆算や図形でつまずく
●泳げない
こうした症状がなぜ起きてしまうかといえば、協調運動の発達がスムーズにいっていないためだ。人がある運動をしようとするときは、視覚や聴覚、触覚、平衡感覚、位置感覚などさまざまな感覚から入力された情報を脳が統合して、目的にあわせて(協調させて)運動として出力するのだが(これを「協調運動」という)、そうした機能に不具合が生じ、年齢に不釣り合いなほど不器用になってしまうのだ。
問題はこのDCDが教育現場や医療現場でも知られておらず、配慮されないどころか、「ぶきっちょ」「とろい」「にぶい」「運動音痴」などと心ない偏見を受けてしまいがちなことだ。あくまでも脳の障害であってDCD当事者のせいではないのだが、支援も理解もないまま、当事者の中には「自分だけができない」という思いが募って自己肯定感を下げてしまう。果てはいじめや不登校などの二次合併症につながるケースも少なくないというから深刻だ。
本書によれば、「うちの子、もしかして…」と思い当たる方は、地域の保健センターや子育てセンター、各都道府県に設置されている発達障害者支援センター、小児科医などに相談するといいとのこと。そこでDCDと診断されれば、困難な状況を改善するために周囲の人や社会から配慮を受けることが可能になり、少しずつ本人の生きやすい状況が作り出せるかもしれない(本書には実際、診断によって学校側に対応をお願いした実例なども多数紹介されており参考になるはずだ)。もちろん社会にDCDの認知が広まるのも大事なことだ。その意味で本書が果たす役割はとても大きいといえるだろう。
文=荒井理恵