「子どもがいらない? そんな冷たい人だとは思わなかった」子どもをもつ、もたない、すべての選択を尊重する社会のありかたとは

マンガ

公開日:2023/5/23

まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。
まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』(森下えみこ:著・イラスト、くどうみやこ:著/小学館)

 結婚、仕事、出産……。

 私は出産のみ経験していないが、ライフステージが変わるたび、友人が自分に近い存在ばかりになっていくのを感じる。

「どうして子どもがいないの? 自分の子どもなら可愛いよ」「年齢的にまだ産めるし頑張って」と言われるうちに会いたくなくなり、関係が途絶えた友人も少なくない。

 自分とは異なる人生を肯定してほしい。私は彼女たちにそう言えば良かったのだろうか。『まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』(森下えみこ:著・イラスト、くどうみやこ:著/小学館)では今の世の中を生きる私たちが、個々の生き方を尊重しているのか、漫画とコラムによって問題提起をする。

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 主人公は6人の女性だが、彼女たちは作者が取材した500人の女性を内包した存在である。マンガの原案とコラムを書いたくどうみやこさんは子どものいない女性たちを応援する「マダネ プロジェクト」を立ち上げた人物であり、子どもがいる人、いない人で分断が起こらないように願っている。

 なお、このプロジェクトでは60代以上の人は子どものいない女性の先輩として「グランマダネ」と呼ばれている。

 主人公の6人は、それぞれ異なる理由で子どもがいない。

 不妊治療のために仕事を辞めたが4年経っても子どもを授かることのできなかったミホ、自然な流れで子どものいない人生を歩んでいるマユミ、独身で仕事を頑張っているが「女性の活躍というけれど子どものいない人は無視されているのでは」と感じるリョウコ、子どもがほしいと思ったことのないミサキ、夫の男性不妊が原因で子どものいないカオリ、子宮の疾患が理由で妊娠や出産ができなかったグランマダネ。

 グランマダネ以外は30代後半から40代の女性であり、「子どものいない人生」と向き合おうとしている最中だが、周囲の心ない言葉によるモヤモヤを抱えている。

 たとえばミサキは、義母に子どもはいらないと打ち明けるとこのように返される。

子どもが欲しくないなんて、そんな冷たいことをいう人だとは思ってなかったわ……。

 また、リョウコは子どものいる人のフォローをしてきたのに、子どものいる女性管理職のほうが会社から評価されて自分は昇進できないという現実にジレンマを抱えている。

 私個人としては子どもがほしいと思ったことのないミサキと近い立場であり、産まない選択をしていると言いづらい社会の空気や、自分だけなのではないかという孤独感を抱えていた。

 あるとき、産まない選択がテーマのZINE(自由なテーマ・手法で冊子を作ること)を出した。産まない選択をしたいのに、夫と別れたくないから言い出せない女性や、子どものいる時短勤務の女性が、働いている同僚たちの前で「今日はネイルをして帰ろう」とつぶやくことに違和感を抱く子育てを終えた会社員の方など、自分とは異なる立場の女性の思いを知ると同時に「子どもがいないことで心ない言葉を投げかけられているのは自分だけじゃない」と感じた。

 また、あえて子どもを産まない選択をした当事者としてイベントに出たとき、「子どものいない人はどうして産まないのとよく聞かれるのに、子どものいる人に対してどうして産むのと聞く人はあまりいないですよね」と発言すると、その言葉にはっとさせられたという感想をいただいた。

 そして私もまた、くどうみやこさんと同じように子どもがいる人や不妊治療中の人の思いも理解したいと願っている。

 私たちの前にはいくつもの道があり、その道の先にはそれぞれの幸せがあるのだ。

 子どもを産む、産まない、授かれない30代以上の女性だけではなく、まだ産むかどうか決めておらず、望んでも産むことが可能かどうかもわからない若い世代、そして男性にも、この本を手にとってほしい。

 少子化対策が叫ばれている日本で、いないもののように扱われている「今後も子どもを産まない女性」に目を向けるきっかけになるはずだ。

文=若林理央