「あなたはどう思いますか?」が怖くなくなる! 5ステップで自分の意見を作れるフランス流の思考フロー
公開日:2023/5/23
「意見を出してもどうもパッとしない」「人の出方をうかがってしまって、自分の意見を形作ることに専念できない」といったような悩みを、特に年度が変わってから新しい部署や職場で持っている人は多いのではないでしょうか。その解決策となり得るのが、『「自分の意見ってどうつくるの?」哲学講師が教える超ロジカル思考術』(平山美希/WAVE出版)です。
著者の平山美希氏はフランスの名門・ソルボンヌ大学で哲学を学び、現地で講師経験がある2児の母で、フランスの高校生たちが受験する高校卒業認定試験(バカロレア)の面白さを、日本の小中高生に広めてきました。そのエッセンスをビジネスシーンにおける会議やグループディスカッション、日々のコミュニケーションに応用してもらうということが、本書の狙いとなっています。
平山氏はフランスで暮らしながら、一般論に簡単には同意しないフランス人にしばしばカルチャーショックを受けていたといいます。
日本にいるときと同じ感覚で私が「親には感謝しないとね」と言ったところ、それを聞いたフランス人にこう反論されたのです。
「本当にそうかな? 子どもを産んだからには育てる義務がある。義務でやったことに対して、子どもが感謝する必要は必ずしもないと思う」
こう書くと、フランス人はみな天邪鬼のように思われるかもしれません。私自身もこの意見を聞いたとき、「なんて非情な人なの!」とショックを受けました。
でも、このときのショックは、のちに当然だと思っていることでも疑うことができるのだという学びに変わったのです。
こうしたスタンスの基盤には、以下のような5つの思考フローがあるといいます。
1 問いを立て、問題の輪郭を形づくり、「目印」を明確にする
2「目印」自体や関連する言葉をチューニングして、丁寧に定義をする
3 極端な例や真反対の例など、様々な切り口から考えて前提条件を疑う
4 テクニックの習得や意見交換によって考えを深める
5「自分の意見」と断言できるような状態まで曖昧さを排除し、答えを出す
この1~5が本書の内容の80%以上なので、ひとつひとつをご紹介することはできませんが、「意見を言える」というハードルを越えるには次に待っている「結論を出す」という地平を知ることが大切なので、最後の5について少し紹介します。
結論を出すという行為は「ある立場を選ぶ」ことだと言っていいでしょう。
そして、それは同時に「ある立場を選ばない」ことでもあります。
自分の意見をはっきり言えないのは、ある立場を選び取ると同時に、別の立場を捨てなければならなくなってしまう。その事実が不安だからではないでしょうか。
平山氏は、ウォールアートで有名なバンクシーを例に、「結論を出す」ことを説明しています。「公共物や私有物に絵を無許可で描くのは違法ではないのか」という問いに、「違法という捉え方もあるし、高付加価値化されるから違法ではないという捉え方もあるし、私は人それぞれの考え方があります」と発言したとします。これでは、結論が出されたことにはならないといいます。「私の家の壁に描かれたとしたら許せます」などと断定して、初めてひとつの立場が選ばれたことになるためです。この場合は「私の家の壁に描かれたとしたら許さない」という立場を取らないことにあたります。
しかし、「私の家の壁に描かれたとしたら許す」という立場を取るということが、「私の家の壁に描かれたとしたら許さない」という立場に行けない(もしくは「許容しない」から「許容する」に行けない)ということではありません。むしろ、ともすると日本社会の「前提」では不安に感じてしまいがちな、そうした「心変わり」「前言撤回」こそが人生や仕事を面白くするのではないかと筆者は感じました。
自分の意見の形作る方法や仕事のやり方に悩みを抱えているところに、本書はフランス流の助け舟を出してくれるかもしれません。
文=神保慶政