生きづらさを打開する「語彙力」を育み、親子のコミュニケーションを増やす会話ゲーム
公開日:2023/5/25
以前、先天性難聴の女性に取材した時、「わたし、ものすごく語彙力のある難聴児だったんです」と言われて驚いたのを覚えている。文字が読めないうちは、耳から入った言葉を覚えていくのが一般的だが、聞こえない子どもは言葉を知る機会が圧倒的に少ない。それを知った彼女の母親は、物心つく前からあらゆる言葉をかけ、彼女は母親の口の動きを読み取って言葉と意味を習得していったのだそう。
「母は、『この子が身につける言葉は、すべて自分にかかっている』と思っていたそうです」
聞こえる子どもは、親の知らないところで新しい言葉を覚えてくることもある。しかし、聞こえない子どもはそれが難しい。自分の語彙がそのまま子どもの語彙になると思った母親の努力と工夫は、並々ならぬものがあっただろう。
「語彙力」とは、「どれだけ言葉を知っているか」と「どれだけ適切な言葉を使いこなせるか」という言葉の量と運用のこと。接する人や環境、生活習慣、行動範囲、会話や読書によってさまざまな言葉に触れ、時間をかけて蓄えていく力だ。
だからこそ、普段のコミュニケーションがキモになる。日々の親子の会話の中で子どもの語彙力を育むコツを紹介するのが、齋藤孝『親子で楽しく考える力が身につく!子どもの語彙力の育て方』(KADOKAWA)だ。
本書で紹介されているのは、会話のゲーム。「さあ、語彙力を身につけよう」と構えるのではなく、普段の会話の中に語彙力を育むゲームを取り入れるというもの。
たとえば「オリジナル四字熟語」のゲームでは、既存の四字熟語を使わず、自分なりの四字熟語を作って会話する。
親「今日のご飯は『野菜三昧』!」
子「え~っ、それじゃあ『満腹無理』だよ」
頭の中にある言葉から適切なものをピックアップすることで言葉を運用する力がつき、おもしろい言葉が印象に残ることで言葉のストックが増えていくのだそう。
あるいは、もっとカンタンな「韻踏みゲーム」では、「つぶあん」「こしあん」「エイリアン」「ベジタリアン」など、末尾が同じ言葉を交互に言うことでラップのように楽しむことができる。
「2人とも浮かばない時は、スマホで検索する」「子どもが答えに詰まった時には、親がヒントを出す」など、うまくいかない時のセーフティーネットがあるのもいい。
著者は、語彙力があれば人にNOを伝える時にも適切な言葉・表現で言い換えることができ、「関係性を壊すことなくいられるので、心理的な不安が軽減され」るとし、「語彙力があれば生きやすくなる」と述べる。
「語彙力」がブームになって久しい。語彙力は大事だ、語彙力を身につけようという思いは人々の中に根強くある。本書には、「遊び」を「学び」に転換するコツが詰まっている。
文=佐藤恵