山里亮太「必ず復讐する!後悔させる!」ーー周囲へ向かう醜い感情を抱えながら、苦しみ抜いた芸人人生とは

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公開日:2023/5/28

天才はあきらめた
天才はあきらめた』(山里亮太/朝日新聞出版)

 南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭の半生を描いたドラマ「だが、情熱はある」が放送中だ。劇中、山里亮太『天才はあきらめた』(朝日新聞出版/2018)に登場するエピソードが多く含まれていた。本書には山里の「ノート」が、おまけページのような形で掲載されている。いわゆるネタ帳なのだが、恨みつらみがこもったデスノートと言ってもよいかもしれない。一部抜粋しよう。

眠くなったらあいつの笑ってる顔を思い出せ
売れる 売れたら本気で潰す!
ネタを書け!!
忘れるな!!必ず復讐する!!
あいつらを全て後悔させる

 これらが、大人の男の力強い字で、ページいっぱいに殴り書きされているのだから怖い。

 本書は、山里が芸人を目指すに至った原点(モテたいという気持ち)から、芸人養成所への入所(と、大学の男子寮の汗と涙の絆)、2度にわたるコンビ解散(2回とも山里が相方を追い詰めすぎたことが原因と思われる)、そして南海キャンディーズ結成、M-1決勝戦出場とその後が書かれている。

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 山里は、自身が置かれている状況を何度も分析し、過剰な嫉妬心と張りぼての自信をもってネタを作る。山里は自身を「偽りの天才」であると考えた。必死に努力することで、自分は天才なのだと思い込ませてきたのだ。周囲へ向かう醜い感情に狂いながら、苦しんでネタを作り、また苦しみながらネタ合わせをし、なぜ自分が言ったようにできないのかと相方を罵倒する。現実をなんとしても打破しようとする姿に、徐々に読者も追い詰められていく。

 NSC内外で快進撃を続けていた「キングコング」への隠しきれない嫉妬。
 コンビを組んでいたM君からの「もう許してくれ」という突然の解散宣告。
 同じくコンビを組んでいた富男君からの「もう無理だわ、解散する」との言葉。
 お笑いにおいて「これがやりたい」という気持ちがないこと……。

 芸人とは、こんなにしんどいものなのか。4章で、やっと南海キャンディーズの相方である山崎静代が登場した時は、彼女が持つ上品さと天然の面白さに心が洗われるようだった。

「皆さん、その怒りのこぶしは日本の政治にぶつけてください」

 漫才の冒頭、しずちゃんがぶりっ子をしたことに対しての返しである。南海キャンディーズのブレイクで、山里が見る景色はどのように変わったか。お笑いをやっているのに、ずっと「楽しくなさそう」だった山里が、だんだんと「楽しそう」になるのだ。本文には、「自分の仕事に義務感だけでなく楽しさが加わると、作業のスピードや集中力など段違いに違ってくる。それはさらに自信を高め、あたかも才能があるように感じられる。そしてまた楽しくなるという素敵なスパイラルを生んだ」とある。2度のコンビ解散で学んだことは多かっただろう。眠りそうになる自分の頬を自分で叩きながら、必死にノートを書く日々は、「楽しさ」に繋がっていたのだ。

「何者かになりたい」と芸人を目指した道中、どこまでも続くノートの真っ暗闇があった。嫉妬、悪口、陰口、そして修正に修正を重ねて出来上がるネタの数々。その闇が味方となった今でも、彼はノートを書き続けているのだろう。闇が光に変わる瞬間を、舞台のライトの下で感じながら。

文=高松霞