子どもの自己肯定感を高める1冊! 好きな人に「告白代行」してくれるクローゼットの魔女が、あなたの恋をお手伝い
公開日:2023/6/16
世の中にはさまざまな代行業があるけれど、好きな人に想いを伝える、告白だけは誰かに肩代わりしてもらってはダメな気がする。だけどもし、自分そっくりに変身してくれる魔女が目の前に現れて、かわりに告白してくれるとしたら? とびきりの衣装を堂々と着こなし、任せてくれと胸をたたいてくれたなら、一縷の望みをかけてすがってしまうかもしれない。『ドレスアップ!こくるん① キミの代わりに告白してあげる!』(久野遥子:原作・監督、竹浪春香:文、ひらいいち。:絵/岩崎書店)は、迷える片思い人たちの救世主となるべく、クローゼットの魔女・こくるんが奮闘する物語である。
クローゼットを4回たたくと現れ、依頼者そっくりの姿に変身し、告白をしてくれるというこくるんは、自信満々なのはいいのだけれど、どうにも危なっかしくて頼りない。というのも彼女、どうやら誰かを好きになるという心の機微を理解しておらず、「好きって言えばいいんでしょ!」と言わんばかりに、勢いだけで突き進んでしまうのだ。そのため、こくるんをフォローすべく、けっきょく自力で行動するはめになる依頼者たちの翻弄されっぷりは、読みながらついつい笑ってしまう。
クローゼットの魔女と名乗るとおり、こくるんの本領は告白ではなく、ファッションセンスに発揮される。依頼者のもつ服の中からもっとも素敵だと思うものを選んで着るこくるんは、依頼者が同じ服を着たときよりもずっと魅力的に見える。姿かたちは自分と同じはずなのになぜ、と当然、依頼者たちは戸惑うが、それは魔法のせいではなくて、こくるんが常に堂々と胸を張っているからだ。自分のあるがままを肯定し、その服を着た自分がいちばん素敵だと思える心。それが彼女を、ぴかぴかと輝かせるのである。
〈服を着替えただけなのに、いつもの自分とは全然ちがって見える。試着をするたびに、だれにだってなれるし、どこへだって行けそうだ。なりたい自分にだって、なれそうな気がする。〉
これは、2話目の依頼者である吉井という男の独白。キッチンカーでアイスクリームを売る仕事をしている彼は、医者となった初恋の人に偶然再会し、告白したいと願うのだけど、自分なんて彼女には釣り合わないと引け目を感じている。だから、こくるんが、彼のいつものエプロン姿で告白に臨もうとしたときも必死で止める。こくるんが、その衣装がいちばん素敵だと思ったように、そのままの吉井でじゅうぶん魅力的なのに。
どんな服を着ていても、吉井は吉井だ。でも、堂々と胸を張るためには、気持ちを底上げしてくれる衣装を選ぶことも大切で、自信を手に入れてはじめて、吉井はエプロン姿の自分も肯定することができるようになる。そんな大人の葛藤が描かれた2話目は、ぜひ大人の読者にも読んでいただきたい。
その他の依頼者たちもみな、目的に向かって迷いなく直進するこくるんの姿に影響されて、自分が何を大切にするべきなのか再確認し、好きな人にまっすぐ向き合う勇気を手に入れていく。その過程に胸を打たれると同時に、クローゼットを4回たたいて、とびきり素敵な衣装を自分も探してみたくなる。
文=立花もも