傑作コミック『水は海に向かって流れる』が待望の実写映画化! 原作者・田島列島×主演・広瀬すず対談

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PR 更新日:2023/6/12

原作・田島列島×主演・広瀬すず対談

田島列島さん、広瀬すずさん

 映画『水は海に向かって流れる』の公開を記念して、原作者・田島列島さんと主演・広瀬すずさんの対談が実現! フィルムに愛された俳優と広瀬さんを絶賛する田島さんは、映画をどう観たのか? お話をうかがった。

取材・文:立花もも 写真:山口宏之

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田島 完成した映画を拝見しまして、とにかく広瀬さんがお美しく、惚れ惚れとしてしまいました。単に容姿の造形が整っている、ということではないんですよね。広瀬さんはいつも、スクリーンの向こうにいる人たちの感情を、観ている私たちにとても純度の高い美しいものとして伝えてくださる。以前、映画『海街diary』にご出演された際、自転車で走っているとき桜の花びらが一枚おでこに張りついて、カメラが寄った瞬間、風に舞っていったというお話を聞いたことがあるのですが。

広瀬 そんなことまで知ってくださっているんですか!

田島 そうした偶然性を味方につけるところも含めて、フィルムに愛された俳優さんだなと以前から感じていました。榊さんを演じてくださって、ありがとうございます。

広瀬 恐れ多いです。実を言うと最初は、どうして私なんだろう、というのが正直な気持ちでした。私は実年齢よりも幼く見られがちで、大人を演じるとしても、子どものようなピュアさや未成熟な部分を抱えた役をいただくことが多かったので、榊さんのように大人としての葛藤を抱えた女性は未経験。いつもなら直達くん側なのになあ、と思いつつ、台本を読んでやってみたいという気持ちがおさえきれずにお受けしたという感じでした。

演じることで少し変わった榊さんの殻のまとい方

田島 冒頭、シェアハウスに初めてやってきた直達にポトラッチ丼(榊さんがときどき私財をなげうってつくる超高級牛肉丼)の調理をしている場面とか、暴力的でよかったです(笑)。

広瀬 ワイルドにもほどがある場面ですよね。庭でバーベキューするときも、ぶあつい肉を乱暴に切ろうと頑張るんだけど全然切れない。男手はあるのに誰も手伝ってくれないのが、榊さんの立ち位置を示している感じがして、そういうところから彼女の造形をつかんでいきました。直達を演じた大西(利空)くんが食べているところを缶ビール飲みながら眺めているシーンも、こういう大人いるよなあ、って思いながら(笑)。ただ、私の演じた榊さんは、原作のイメージとはちょっとズレていると思うんですよね。

──どういうところに、そう感じるんですか?

広瀬 原作の榊さんは、滞った感情や状況を流すのが上手な人だと思います。ときどき、ぱたんとその流れが止まって閉じてしまうときがあるけれど、何かの拍子に不意にまた流れ出す、みたいな。でも私が演じようとすると、彼女ほどさらっとした佇まいではいられなくて、どうしてもぐるぐる渦巻く感情に翻弄されてしまった。もう少し透明度高く演じられたらよかったのかもしれないけど、直達くんとの出会いや過去との対峙を通じて感じたものを、どうしても無視できない泥臭さみたいなものが滲み出た気がします。

田島 流すのが上手……なるほど。言われてみれば、榊さんは基本的に、自分の気持ちに目がいっていない人かもしれません。

広瀬 原作の榊さんを覆っている殻は薄くて何重にもなっていて、破れたと思ったらその奥にまだあった、という感じ。対して私の演じた榊さんは絶対に破らせまいとするぶあつい殻が1枚。だから原作ほどの柔らかさがなくて、「意外と毒舌じゃん」みたいなギャップもない。「ああ、そういうこと言いそう。やりそうだよね」っていう気の強さを出してしまったのは、いまだにちょっと反省しています。

田島 そんな、そんな。私は、原作との違いはあまり感じなかったですよ。榊さんはけっこう普通の人だと思って描いていたので、広瀬さんの演じたその泥臭さも、彼女のなかに普通にあるものだというふうに受け止めています。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、因縁が深い相手である直達の父親(北村有起哉)に、お盆を投げつける場面もすごくよかったです(笑)。

人間の欲深さが切実でとても美しかった

広瀬 私は、直達のお父さんの「ちょっとでいいから自分のことをちゃんとした人間だと思いたい」というセリフが好きなんです。包帯で顔をぐるぐる巻きにされて、一目見ただけで笑える状況なのに、こんなにも響くんだ、って。どうしようもなく弱くてだめな自分を自覚しながら、それでも何かを願ってしまう人間はとても欲深いんだけど、でも切実で、美しい瞬間でもあるなと感じました。

田島 いいところにも悪いところにも行きつかないというか……どっちつかずでいることって、悪いことじゃないんじゃないかって思うんです。ある主義に固執しているうちに、いつのまにか死体の山ができあがっていることもありますし。

広瀬 大事なものって、瞬間的に変わったりしますよね。これを大事にしてお芝居をやっていこう、と決意したことも、続けていくうち、やっぱり全然違った、と気づいて手放してしまうこともある。大事なものは自分だけで握りしめすぎない、というのは本作で描かれるテーマの一つだと思いますが、私自身、無人島にすら何も持たずに行きたいタイプ(笑)。きっと誰かが助けてくれるかなと思っています。

田島 私はなんだろう。ライターかな。

広瀬 現実的(笑)。でもどうしても必要なのってそれくらいなのかも、と思います。

田島 誰かが助けてくれる、とおっしゃいましたが、固執しすぎないためにも、他者と対話し、関わる機会を持つというのは、すごく大切である気がします。

広瀬 もともとは自分のことを人に開示するのがあまり得意ではなくて、おもしろおかしく笑えること以外は話したくない、と思っていたんです。たまに本音を言って、言わなきゃよかったなと思うこともありましたし。でも最近は、以前よりオープンな性格になってきて。直達くんが榊さんの荷物を半分持ちたいと言ってくれたように、私が想像していたよりもまわりに味方はたくさんいたんだということに気づいた。いまだに、荷物を持たせるのは申し訳ないって気持ちはあるけど、お互いに負担のないところで預け合うコミュニケーションの取り方がわかって、ラクになりました。

田島 これからもっともっとラクになりますよ。私も10代のときは一人でぎちぎちに握りしめてしんどかったし、なんであんなこと言っちゃったんだろうと寝る前に反省することも多かった。でも、案外、人は私の言ったことを覚えていなかったりするし、くよくよ悩むのは私だけじゃないと知ってからは、夜もぐっすり眠れるようになりました。お互いさま、とラクな気持ちで思えるようになったのは、歳をとってよかったことの一つですね。

ふっと傷つき、ふっと笑う。その繰り返しで訪れる幸せ

広瀬 シェアハウスの住人たちにもその空気はありましたよね。それぞれ自由にふるまっていて、一緒にいると楽しいけど、何を話したのかはまったく覚えていない。必要があれば手を差し伸べるけど、望まれなければ進んで深く関わろうとしない感じも素敵だなと思いました。演じているみなさんも素でそういう感じだったので、現場はとても居心地がよかったです。

田島 直達と榊さんが二人だけで対峙すると、関係性上、どうしても緊張感が走ってしまうから、おじさんたちが集まってわちゃわちゃしている場面は観ているだけで和みましたね。猫のムーちゃん(ミスタームーンライト)もすさまじくかわいかったですし。

広瀬 ムーちゃん、かわいすぎて、連れて帰りたかったです。おっしゃるとおり、サスペンスっぽい緊張感とポップで気の抜けた感じが交互に描かれるのは、この作品の魅力ですよね。台本を読んだときは、たとえばさっき言った直達のお父さんのセリフも、コメディっぽくなってしまうんだろうと思っていたんです。でも出来上がった映画を観てみたら、ふっと傷つき、ふっと笑みがこぼれ、その繰り返しのなかで幸せな気分がじんわりあとから追いかけてくる、ナチュラルな感情がまさしく水のように、海のように描かれている作品に仕上がっていた。これまでにない役に挑戦させていただいたことも含め、出演できてよかったなと思います。

広瀬すずさん
ヘアメイク:奥平正芳 スタイリング:Shohei Kashima(W) 衣装協力:ワンピース6万9300円(カナコ サカイ/カナコ サカイ info@kanakosakai.com)、カーディガン2万7500円(パーバーズ/パーバーズ カスタマー サポート customer@perverze.co)、リング3万800円(ヒアーズ/ヒアーズ onefiveinc2020@gmail.com)*すべて税込 その他スタイリスト私物

広瀬すず
ひろせ・すず●1998年、静岡県生まれ。2013年、ドラマ『幽かな彼女』で俳優デビュー。出演作にドラマ&映画『ちはやふる』、NHK連続テレビ小説『なつぞら』、映画『バケモノの子』(声優)など多数。今年10月に映画『キリエのうた』、24年に映画『片思い世界』が公開予定。

田島列島
たじま・れっとう●2008年、MANGA OPENさだやす圭賞を受賞した「ごあいさつ」が『モーニング』に掲載され、デビュー。20年、手塚治虫文化賞新生賞受賞。『水は海に向かって流れる』は『このマンガがすごい!2020 オトコ編』で5位を獲得するなど、マンガ好きからも高く評価された。

映画『水は海に向かって流れる』

映画『水は海に向かって流れる』場面写真

6月9日(金)より TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
広瀬すず 大西利空 高良健吾 戸塚純貴 當真あみ/勝村政信 北村有起哉 坂井真紀 生瀬勝久
監督:前田 哲『そして、バトンは渡された』 原作:田島列島「水は海に向かって流れる」(講談社「少年マガジン KCDX」刊) 主題歌:スピッツ「ときめきpart1」(Polydor Records)
©2023 映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社