ツバメは優良物件を判断して繁殖している!? なぜスズメは桜の花を落とすの!? 平凡で身近な“あの鳥”の驚きの生態

暮らし

公開日:2023/6/21

都会の鳥の生態学-カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰
都会の鳥の生態学-カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(唐沢孝一/中央公論新社)

 街中を歩いていると、目にする機会は多いものの、名前は知らない鳥に遭遇することが多々ある。あの鳥は一体、なんなのだろう…。そんな疑問が頭に浮かんだ時、開いてほしいのが身近な鳥の生態を解き明かした『都会の鳥の生態学-カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(唐沢孝一/中央公論新社)だ。

 著者は都立高校の生物教師を務める傍ら、都市鳥研究会の代表や日本鳥学会の評議員・幹事などを歴任。現在は、NPO法人「自然観察大学」の学長だ。

 本書は、東京都心や千葉県市川市を中心に、半世紀以上にわたって著者が観察してきた都会人と都市鳥の生活についての資料をもとにまとめた一冊。写真を交えつつ、人と鳥が育んできた関係性や都市を舞台に繰り広げられる鳥たちのバトルなど、都会に生きる“都市鳥”の生態を詳しく紹介している。

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不動産鑑定士のようなツバメの巣作り事情

 人間と親密な関係を保っている鳥といえば、ツバメだ。自宅の屋根に巣を作るツバメを微笑ましく見守った経験がある人は、きっと多いことだろう。そんなツバメの巣には、実は優良物件があるという。

 これは、木下弘氏が新潟で9年間にわたってツバメの婚姻関係や、つがい相手の変化を調べた際に発覚した事実。ツバメはなんと、巣作りする場所を見分けているというのだ。

 ツバメが繁殖する建物を調べたところ、長年にわたってツバメが利用するAランクの物件、時々利用するBランクの物件、できれば避けたいがやむなく利用するCランクの物件に分けられるのだそう。

 ランク分けは東京の銀座や千葉県市川市、成田市でも見られており、実際、著者が調査した市川市内にはツバメが30年以上、連続して繁殖している優良物件が3つあったとのこと。そうしたAランクの物件では繁殖開始が早いため、巣立つのも早く、2回目の繁殖を行うツバメが多かったという。

 物件のランクは、雛の生存に大きく関係する。著者による市川市内での調査では、Aランクの物件で繁殖して巣立った雛は計17羽であったのに対し、Cランクとみなされた8つの物件ではすべての繁殖に失敗。1羽の雛も巣立たなかったという興味深い結果が得られたそう。ツバメの不動産鑑定力は私たちが考えているよりも、高いことがうかがえる。

 まるで不動産鑑定士のようなツバメの生態を知ると、自宅で巣作りする姿を見るたび、我が家はどう評価されているのだろう…と考えてしまいそうだ。

スズメが桜の花を千切るワケとは?

 街中でも探せば必ずどこかにいるスズメは、まさに平凡な都市鳥。春には桜の花を千切って落とす姿が話題にもなる。その行動はイタズラをしているように見えるかもしれないが、実は違う。そこには、スズメのくちばしが太く短いことが大きく関係しているのだ。

 メジロやヒヨドリは、ストローのような細長いくちばしを花に差し込んで蜜を吸う。だが、スズメのくちばしは、その特徴からして花に差し込むことは難しい。そこで、花の基部を切断し、蜜を舐めているのだそう。スズメは桜を千切り、遊んでいるわけではないのだ。

 そんなスズメには他にも、おもしろい特徴がある。異なる種類の鳥に混じって行動を共にする「混群」を、よくするのだ。著者が河川敷で調査した時、最も個体数の多かったスズメとムクドリは中核種(混群の中で最も個体数が多い種)として他の鳥を受け入れるとともに、他の鳥の群れに随伴種(中核種の群れに誘引されて潜入する種)として潜入しやすかったのだそう。

 著者は、この結果を受け、スズメとムクドリは一緒に採餌することで群れを大きくし、さらに「人だかり効果」(※鳴き声を使って他の個体を呼ぶこと)を高めているのだと考察している。

 ただし、スズメとムクドリの結束は、採餌の時のごく一時的なもの。危険が迫ると、混群は一斉に飛び立ち、それぞれの種は別方向に飛んでいくのだとか。他の鳥と協力しながら、生き抜こうとするスズメとムクドリ。彼らの知性は、人間が想像している以上に高いのかもしれない。

 著者は他にも、サギやカワセミといった水鳥の生態、カラスを取り巻く都市鳥や都市環境の関係、猛禽類の都市進出などについても解説。身近な鳥たちの奥深さを教えてくれる。

 バブル経済や都市公害、コロナ禍など、時代の変化によって人間の生活が変わっていったように、都市鳥たちも暮らしを変え、栄枯盛衰を繰り返している。本書は変貌し続ける都市社会で暮らす都会の鳥たちについて詳しくなれる、生態学本だ。

文=古川諭香