森鷗外『舞姫』あらすじ紹介。恋に落ちたエリート官僚。しかし、恋と名誉の間で揺れる男は、妊娠した彼女を捨てた――
公開日:2023/6/20
森鷗外『舞姫』は、高校の現代文の教科書にも採用されている小説です。和文と漢文が混じる雅文体で書かれているため、とても格調高い文章ですが、とっつきにくく感じるかもしれません。しかし、その内容はエリート官僚と美しい外国人の少女との恋愛小説といえるものです。本稿では、物語の結末までのあらすじを簡潔にご紹介します。
『舞姫』の作品解説
本作は、1890年に発表された森鷗外の短編小説です。著者自身の海外留学経験を踏まえた、初期3部作の一つとされ、自我の解放と確立を目指すロマン主義の先駆的な小説ともいわれています。小説の主人公・豊太郎が、自由に生きたいと願う心の変化に気付くものの、結局最後は社会的な栄誉に囚われ愛する人を捨てるという結末に、「近代的自我」に目覚め苦悩する青年の姿が描かれているといえます。
『舞姫』の主な登場人物
太田豊太郎:若くして官僚になったエリート。
エリス(舞姫):貧しい暮らしをするヴィクトリア座の踊り子。
相沢謙吉:豊太郎の友人で、天方大臣の秘書官。豊太郎の名誉回復のため尽力する。
天方大臣(天方伯):相沢から紹介された豊太郎の才能を評価し、日本への帰国を求める。
『舞姫』のあらすじ
若いエリート官僚・太田豊太郎は、辞令を受けベルリンに留学していた。ベルリンで仕事に励みながら、政治学や法律を学ぶ日々を送っていた。
数年過ぎたころ、豊太郎はエリスという16、7歳の少女に出会う。ヴィクトリア座という劇団の踊り子で貧しい暮らしをする彼女は、父親の葬儀代を出すことができずに困窮して泣いていた。豊太郎が、自分の時計を差し出し支援を申し出たことで交流が始まった。
当初は、師弟関係のようなものだったが、豊太郎の同僚によりエリスとのみだらな関係を上官に指摘され、それが原因で職を解かれると、ふたりは恋人となった。職を失うだけでなく、同時期に母が亡くなったという知らせを受け落胆する豊太郎に、ある新聞社の通信員としての働き口を紹介したのは、友人の相沢謙吉であった。わずかな収入を得て、エリスとその母と豊太郎の3人で慎ましいが楽しい生活をしていたが、しばらくしてエリスの妊娠が発覚する。
前途を案じ沈み込んでいる時、天方(あまがた)大臣の秘書官を務める相沢から大臣の翻訳の仕事を斡旋された。相沢からは、天方に能力を示し、エリスとの関係を断つよう求められ、豊太郎はそれを約束する。豊太郎の仕事は評価され、天方の出張に同行し、そこで更に天方の信頼を得た。出張先からベルリンへ戻ると日本へ一緒に帰国しないかと誘われ、豊太郎は承諾する。
エリスを置いて日本へ帰国することの罪悪感から、そのことを説明できぬまま意識を失い、数週間が経過した。その間に、相沢から豊太郎の帰国を告げられたエリスは、ショックで精神を病み生きた屍のようになってしまった。わずかな資金を渡し、エリスとそのお腹の子をエリスの母に託し、豊太郎は帰国の途に就いた。相沢ほどの友人はいないが、また恨む心もあると思う豊太郎だった。
<第74回に続く>