「3つの“いじ”を遠ざけてキラキラ輝く年寄りに」全世代に響く金言が詰まった『70歳からの人生相談』毒蝮三太夫さんインタビュー

暮らし

公開日:2023/6/8

毒蝮三太夫さん

 俳優で長年ラジオパーソナリティもつとめる毒蝮三太夫さんが「70歳以上が抱えている悩み」と「70歳以上の身内にまつわる悩み」に答えるWEBの人気連載がついに書籍化。87歳にして週に何度もジムに通い、若者との価値観のギャップにも柔軟に対応していく毒蝮さんが、愛される年寄りになるための秘訣を伝授する。『70歳からの人生相談』(文春新書)の刊行を記念してお話をうかがった。

取材・文=立花もも 撮影=島本絵梨佳

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70歳からの人生相談

「いじけない」「意地を張らない」「いじめない」

――まえがきに書かれていた〈「愛される年寄り」は、他人や自分や世の中を「愛せる年寄り」でもある。受ける愛や与える愛が多ければ多いほど、人は幸せになれると俺は思う〉という言葉、ものすごく沁みました。

毒蝮三太夫さん(以下、毒蝮):まえがきとあとがきが、俺のいちばん言いたかったことなんですよ。正直言って、俺なんかが好き勝手に答えたことを本にして、いったい誰がおもしろがるんだろうと思うわけ。でもさ、みんな、俺に聞いてみずにはいられないくらい、悩んでいるんですよ。ときには「そんなことくらい自分で考えろよ」って言いたくなるような質問もあるんだけど(笑)、俺なんかが答えることで少しでも突破口を見つけてもらえたらそれはありがたいことだし、自分と似た悩みを持つ誰かを通じて、状況を客観視できる人もいるかもしれない。だったらまあ、役に立つこともあるのかな。世の中へのご恩返しとして、本にしてもいいのかなって思いました。

――質問に答える上で、意識していたことはありますか。

毒蝮:「そんなこと聞くなよ」とは言わずに、丁寧に答えることですね(笑)。いやね、よくよく考えたら今の70代というのは戦争を知らない世代なんですよ。俺は昭和11年生まれで、兄貴ふたりも戦争に行ってる。戦争経験があるとやっぱり、今の人たちが悩んでいることに対して「そんなことくらいで」って思っちゃいがちなんですよね。でもそうじゃない、彼らと俺たちで生きる感覚が違うのは当然だし、彼らにとってはすべて切実な悩みなんだってことは忘れないようにしていました。あとね、どれも70歳以上にまつわる悩みではあるんだけれど、70歳以上の人にだけ話をしようとは思わなかったですね。

――もうすぐ40歳という年齢ですが、どの回答もすごく響きました。まわりにいる70代以上の人たちだけでなく、いずれその年齢に達したとき自分はどう振る舞えるか、ということも考えさせられて。

毒蝮:それはたぶん、俺が「今」を生きているからじゃないですかね。俺は87歳ではあるけれど、同年代とばかりつるんでいるわけじゃないんです。仕事でもプライベートでも、できるだけ属性の偏らない人たちと会って話をしようというのは心掛けていますね。たとえば俺の代表作に『ウルトラセブン』という作品がありますが、放送から55年経った今も愛され続けていてイベントが行われたりするんですよ。すると、当時、夢中になっていた人たちが孫を連れてきたりします。三世代にわたってウルトラマンの話に興じて、俺に関心を持ってくれたりするのを見ると、若い世代ともちゃんと向き合っていかなきゃなあと思いますね。そこで「お前らにはわからないだろう」なんて態度をとれば、愛されないし対立するだけ。どんな立場の相手であろうと、寄り添うってことを大事にしなければならないと思います。

――寄り添ってはいるけれど、媚びは売らない。思ったことは、厳しいことでもはっきり言う。それもまた毒蝮さんの魅力だなと、本書を読んでいると感じます。

毒蝮:あと、上から目線で諭そうとしないことですね。相手の状況を理解したうえで、こういう言い方だったらわかってもらえるんじゃないかな、と考えながら話すことが寄り添うってことだと俺は思います。そうすると、若い子も「このジジイと話すのはけっこうおもしろいな」「一緒にメシ食ってみたいな」と思ってくれるかもしれないでしょう。年寄りも若者も、お互いに「おもしろい奴だな、もっと会って話したいな」と思えるようになれば、対立することも減って、穏やかな世の中になると思いますよ。

――そのための極意が巻末の「マムシ流 愛される年寄りになれる12の極意」ですね。「3つの“いじ”を全力で遠ざける」、つまり「いじけない」「意地を張らない」「いじめない」ことが大事なんだというところは、肝に銘じておこうと思いました。

毒蝮:この本にも書いたと思うけど、俺の言ったことはパクっていいですからね(笑)。もっともらしく人に伝えて、みんなでどんどん実践していったら平和になると思いますよ。揉め事の原因はだいたい、この3つに集約されますからね。俺自身、その考えは家族から学んだものですし。俺の親父は大工で、お袋も満足な教育を受けていない、字も読めないような人でしたけど、誰かを妬んだりひがんだりするような人たちではなかったです。「人のお世話にならぬよう、人のお世話をするように」ってよく言われてました。大学進学率が今よりずっと低かった時代に、俺が日本大学芸術学部を卒業できたのは、「俺は行けなかったんだから、お前は行ってこいよ」と兄貴が学費を出してくれたから。何の役にも立たない“いじ”を抱えるよりも、人の想いに応えられるよう全力を尽くすほうがずっといいって、そういう生き方を貫いてきたからこその言葉なんですよね。

毒蝮三太夫さん

ギラギラじゃなく、キラキラ輝く年寄りに

――本書では、身内との関係や介護などで理不尽な思いをした人たちの怒りもたくさん吐露されています。そうした悩みに対して毒蝮さんが「どうすれば怒りを鎮められるか」に寄り添いながら「他人をどうこうしようと思ってはいけない」と一線を引いているところも響きました。

毒蝮:ああ……それはね、俺はNHKで17年くらい介護番組の司会をしていて、そこで学んだことでもあります。そこで出会ったある男性は、大きな会社の重役で、いわゆるエリートだったんですが、奥さんが脳梗塞で倒れて認知症になり、介護のために退職せざるを得なくなったんです。番組に出たときは、その生活が10年くらい続いていたのかな。奥さんのために下着を買いに行くと店の人に不審がられるとか、つらい思いをしたって言ってましたね。まあ、下着に関しては素直に事情を話したら親身になってくれたっていうんだけれど、30~40年前の話だから、今よりずっと居心地の悪い思いをしていたそうです。

――先の見えない介護で、そもそもしんどい思いをされているわけですもんね。

毒蝮:寝たきりになって、会話もうまくできなくなって、首を絞めたこともあるとか。奥さんを殺して自分も死んじゃおうって思ったらしいです。でもね、言うんですよ。「そのとき、はたと気が付きました。俺が憎いのは女房ではない。女房を変えてしまった病気のほうだ」「だから病気を治すためにどうすればいいか専念することが俺の役目なんだ」って。治すって言ったって、よくはならないんです。でもそれでも、奥さんとふたりで明るく生きていくことが、今の自分にできることなんだってわかったっていうその人の話を聞いていたら、胸が詰まっちゃって。それが、相手をどうにかしようとするのではなく、自分のしんどい気持ちを鎮めるってことですよね、どれだけ理不尽に感じても。亡くなった聖路加国際病院の日野原(重明)先生にその話をしたら、「そうだよ、だからマムシさんはもし病気の人に出会ったら、まずその人たちが闘っていることを褒めてあげてください」って言われました。

――同情するのではなく。

毒蝮:そう。「俺よりハンデがあるのに、大変ななか、よく来てくれたね。ありがとう」って。でも、それをそのまま伝えるんじゃおもしろくないでしょう。だから、たとえば車いすの人と会ったときは「俺の前に自家用車で乗りつけやがって、生意気なやつめ」なんて言うわけです。そうすると向こうは「どうだ、駐車違反だろう」と笑う。背中をさすって大丈夫ですよと安心させてあげることばかりが介護じゃない。対等な仲間として接し、あなたの味方ですよと思わせるような振る舞いをするのもまた介護なんだ、って学びましたね。だから俺は高齢者にも遠慮なくジジイババアと言うし、「なんだお前うるせえ奴だな」なんて罵詈雑言も吐きます。言われたほうは笑ってくれるんだけど、それがテレビで放送されると不思議に思う視聴者も多いんじゃないですかね。現場は本当に和やかなんですけどね。

――その場でしかわからない「空気」ってありますもんね。

毒蝮:今はSNSで一瞬が切り取られて拡散されると、あっという間に炎上してしまいますから。罵詈雑言の塊みたいな俺のような人間は、格好の餌食だと思います。でもまあ、俺が反撃しなくても「マムシの言ったことをちゃんと聞いているのか、わかってないな」と言ってくれる人もいるから、やっぱり目の前にいる人とのコミュニケーションをいちばん大事にしなくちゃいけないなと思いますね。初対面でも、その人の持つ温度やにおい、輝きを感じとれるような人間でありたいなあと思います。それからやっぱり、不機嫌を顔に出すような人間にはならないこと。相手に機嫌をとってもらおうという了見じゃ、若者から距離をとられて当然ですよ。ギラギラじゃなく、キラキラ輝いている年寄りにならないと。

――キラキラ輝いている人は、年齢がどれだけ離れていても、仲良くなりたいって思えますしね。

毒蝮:そうそう。歳をとれば、顔にシミはできるし、頭はボケる。体もあちこち動かなくなって、何をしなくても老醜が染み出していくんですよ。それをカバーするには、やっぱり愛嬌が必要。笑顔と相手への心遣い、それからある程度ゆとりがあるなら、金を出すこと。金を出せないくらいなら誘わないほうがいいですよ。このあいだ、知り合いの若い女の子が、60代のオヤジからランチに誘われて、割り勘にされたそうです。最悪ですよね。相手が年上ってだけで、若い子は気を遣うじゃないですか。自分で金を払うなら、気の置けない友達とランチしたほうがずっとマシですよ。もちろん、借金してまで払えとは言わないけれど、清潔感と身だしなみに気を配って、若い子にできるだけ負担をかけない振る舞いをすること。それは人生の長老としてのノルマだと俺は思います。まあ、なかには、稼いでいるのに奥さんから小遣いをもらえなくて厳しい、って男もけっこういますが、その場合は奥さんにも「旦那が若い子にご馳走できるくらいの金は持たせておけ」と言いたいですね。

毒蝮三太夫さん

独りでいることも楽しめれば自然と人は寄ってくる

――30~40代でも、後輩に対する接し方として、グサグサきます。あと〈独りを楽しめるからこそ、誰かとの時間も楽しめるし、人との適度な距離を保てる〉というのも刺さりました。

毒蝮:「独りでいることを楽しめる年寄りになる」って章ですね。我ながら至言ですよね(笑)。独りでもできる趣味を持つ。仕事を持つ。独りに耐えられる精神を持つ。それはやっぱり、必要ですよ。ときどき、奥さんがひとりで出かけるのをいやがる旦那がいるでしょう。家のなかでも、あれわかんない、これわかんないって、存在をアピールしてかまってもらいたがる。猫じゃねえんだからさ、奥さんからしてみたらたまったもんじゃないですよ。独りでいてもチャーミングな老人になれば、自然と人は寄ってきます。「あんな老人になりたいな」って思ってもらえるようにならなきゃ、誰も未来に希望を持てなくなるじゃないですか。

――本作のなかで、ジェーン・スーさんと堀井美香さんのラジオ番組に触れて〈素晴らしいなと思うのが、彼女たちが「オバサン」と呼ばれる年代になった自分に、誇りを持っているというのが伝わってくるところ〉とおっしゃっていましたが、それと通じるところがありますね。

毒蝮:そのためには、何が起きてもぐらつかない自分の芯を持たないとだめです。ただ、あんまり自分が強すぎると価値観を相手に押しつけちゃうでしょう。芯を持つにしても柔軟性は忘れちゃだめですね。震度2で揺れてるくらいがちょうどいい。震度6で相手に迫ると、いろんなものを壊しちゃいますから。

――毒蝮さんが独りを楽しむために気を付けていることってありますか?

毒蝮:ジムには週2~3回行ってます。サウナとジャグジーと、あとプールでウォーキングなんかして。膝があんまりよくないから、支える筋肉はつけておかないといけないし、自分が元気じゃなきゃ人を元気にすることもできない。ジジイの見本になるべく、老醜を見せないよう頑張っております。まあ、俺が好き勝手言ってることをみなさんが本当におもしろがってくれるのか、今も首をひねるところはあるんだけど、ま、よかったら試しに読んでみてください。

毒蝮三太夫さん