累計31万部突破のデビュー作『木曜日にはココアを』の続編――1度きりの縁も大切にしたくなる抹茶カフェを舞台にしたショートストーリー集

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/15

月曜日の抹茶カフェ
月曜日の抹茶カフェ』(青山美智子/宝島社)

 大事なものほどぎゅっと握りしめすぎて、壊れてしまうということがある。大好きな人に執着しすぎて、その関係を確かなものにしたくて、不安で、焦って、距離感をまちがえて、せっかく繋いだはずの縁をみずから失ってしまう。本当は、ただ流れに身を任せていればいいだけなのに。そんな人の弱い心を、青山美智子さんの小説はいつも優しく包み込んでくれるような気がする。文庫化されたばかりの『月曜日の抹茶カフェ』(宝島社)も、そう。たとえこの先に繋がらなかったとしても、たった一度、たった一瞬、すれちがえただけの縁もあなたの血肉になるのだと、失われたとしても無駄なんてことはないのだと、背中を押してくれるのだ。

『月曜日の抹茶カフェ』は、累計31万部を突破した青山さんのデビュー作『木曜日にはココアを』の続編で、東京の住宅街の片隅にひっそりたたずむ、川沿いのマーブル・カフェを訪れる人々を描いた群像劇である。だが、店内での様子がほとんど描かれることのないところが本作のおもしろいところ。前作では東京とシドニー、今作では東京と京都を行ったり来たりしながら、人々の出会いと別れを描きだす。

 たとえば第一話で描かれるのは、マーブル・カフェの定休日である月曜日に、抹茶カフェのイベントを開催する京都の老舗お茶屋の若旦那と、たまたまカフェに足を踏み入れることのできた女性客の出会い。なぜイベントの告知をしないのか、と問う彼女にマスターは言う。〈なりゆきで行くことになったとか、知らなかったけどどういうわけか来ちゃったってほうが面白いでしょ〉と。一回きりで終わるこの抹茶カフェのように、先に続かないように見える単発の出会いであっても、縁の種は確実にその人のなかに植えられ、いつか思いもよらぬ形で芽吹くかもしれないのだと、その可能性について語る。

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 忙しくて余裕のない世の中で、人はどうしても目に見える成果を求めてしまいがちだ。意味のないことはしたくない。無駄な時間は使いたくない。けれどその無駄こそが、人の心を豊かにしていく。たとえ喧嘩別れしたとしても、その誰かと出会ってともに過ごした時間はなんらかの影響を及ぼしているはずだし、縁があればいつかまた出会って、過去とは違う関係が紡げるかもしれない。永遠に再会できなかったとしても、別れの経験は、同じことをくりかえすまいとその人を強くする。

 人はどうしたって見栄を張り、自分をごまかして嘘をついたり、誰かを傷つけたりすることから逃れられない。どんなにいやになっても、自分との縁だけは死ぬまで断ち切ることができない。だからこそ、誰かとたった一回、ほんの一瞬、繋がることが必要なのだ。自分以外の風を身の内にとりこんで、自分以外の誰かの幸せを願う気持ちを育てることが。大切なものや人を握りしめすぎてしまう頑なさを手放したとき、人は本当の意味で強く優しくなれる。前作よりちょっぴり大人になった登場人物たちの姿にも触れながら、私たちもまたそうありたいと願わずにはいられない。

文=立花もも