中学校の文化祭で初めて耳にしたエレキギターの音。心の中で革命が起きていた/凛として時雨 TK『ゆれる』④

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/24

ゆれる』(TK/‎KADOKAWA)第4回【全9回】

 ロックバンド「凛として時雨」のボーカルとギター、そして全ての作詞と作曲を担当するTKさん。その独創的な視点で表現する音楽は唯一無二。人々を魅了するTKさんの音楽はどのようにして生まれてきたのか。初めて人に歌を聴かせることを意識した中学生時代、エレキギターの音との出会い、母親に反対されながらも音楽の道へ進むと決めたとき、そしてバンド結成への道のり――。『ゆれる』は、途中ですべてをひっくり返しても表現したいものを突き詰める、そんなTKさんの音楽人生を綴った初の書下ろしエッセイです。

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ゆれる
『ゆれる』(TK/‎KADOKAWA)

感電

 乾いた風が色めいた木々を揺らす中、少し肌寒さを感じる体育館に、僕たちは集められていた。妙な艶感のある床の上、硬質な響きに包み込まれる苦手な場所だ。

 その日、僕の中学校では文化祭が催されていた。いや、正確にはあれが文化祭だったのか、生徒会長が演奏するというプログラムが組み込まれた謎の催しだったのか、記憶が曖昧な一日。普段は校長先生が真面目な話をする壇上で、生徒会長を擁するバンドが演奏を始めると、空気を切り裂くキーンとした音――今までに聞いたことのないエレクトリックな騒音が、体育館中に発せられていた。

 演奏されていたのは校歌だった。校歌が好きだとか嫌いだとか言う人がほとんどいないように、音楽自体にはなんの感情も抱かなかったが、僕はエレキギターから生まれる音に耳を奪われた。まだ、アコースティックギターすらろくに弾いたことのない頃、初めて耳にしたエレキギターの音は、僕の心に「憧れ」とはまた違う「違和感」を残した。空気が震えて鼓膜を振動させるあの経験は、テープやCDでどれだけ聞いているディストーションよりもひずんで聞こえた。

 通っている中学校の体育館で演奏されたライブに何かしらの衝撃を受けるなんて、どこにでもある話。僕にはそんな瞬間がたくさんある。

 凛として時雨のように、一聴して難しく聞こえる音楽をやっているからか、あまり普通なものには何も感じないと思われているかもしれないが、この身近なものや大衆的なものに心を奪われる瞬間を、僕は今でも大事にしている。自分がその中で音楽に出会えて感動したあの感覚を、どれだけの経験を経ても大事にしている。クリエイティブにおいて、唯一無二であることも大切だけど、その先に、聴いてくれる人たちが「僕の音楽と出会ったあの日、あの瞬間の、自分がいたときを振り返ってくれるのかどうか」をいつも考えている。

 クラスに戻った僕たちは、先輩たちが校歌の後に何度も奥田民生さんの「イージュー★ライダー」を演奏していたことと、途中から「イージュー」と呼びだした話題で持ち切りになっていた。なんでもないことが笑い話になるあの頃、僕の中には誰にも見えない革命が余韻を残していた。

<第5回に続く>

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