「無能」だと思っていた妻が家出! 自分が“モラハラ加害者”だと気づいた夫は生まれ変わることができるのか…?
公開日:2023/6/17
身体的な暴力はないものの、暴言や無視などで相手を精神的に傷つけるモラハラは職場だけでなく、家庭内でも起こる。結婚後、パートナーが“モラハラ”であることに気づくと、真っ先に頭に浮かぶのは離婚という選択肢だろう。
自分を傷つける相手から身を守ることは、もちろん大切だ。だが、もし、モラハラ加害者が自身の加害言動を自覚して変わりたいと願い、被害者にもやり直したいという気持ちがあるのならば、家庭修復時、参考にしてほしい本がある。
それが、コミックエッセイ『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』(龍たまこ:著、中川瑛:原著/KADOKAWA)だ。
実は原著を担当した中川瑛氏自身が、元モラハラ加害者。「あなたのため」と言いながらもパートナーを自分が望む形に変えようとしていたことに気づき、変わろうと決心。決して平坦な道ではなかったが、努力によってパートナーとの関係を修復することができたそう。
現在はDV加害者当事者団体「GADHA(ガドハ)」を運営。自分の加害性を自覚し、変わりたいと思う人々をサポートしている。
本作では一組の夫婦を例に、モラハラに関する知識や加害者・被害者の心理などをコラムも交えながら詳しく紹介している。
「無能」だと思っていた妻が家出! 99%離婚確実な状況でモラハラ夫は変われるのか?
専業主婦の野沢彩は、家庭で心が休まらない。夫・翔の機嫌を損ねないか、いつもビクビクしているからだ。
翔は大手商社に勤める、高学歴のエリートサラリーマン。付き合っていた頃から周りの人を責める発言が多く、結婚後には家事を彩に任せるように。
彩は翔の強い希望で、妊娠後専業主婦になり、娘を出産。子どもが産まれたら夫も変わってくれるはずだと思っていたが、彩への態度は悪化。子育てで忙しくて家のことができないと「要領が悪い」と罵ったり、体調不良の時に助けを求めた彩を「家のことはお前の仕事だろ?」と突き放したりしていた。
夫の言動により心が限界になった時、彩は偶然、ネットの広告を見たことを機に、自分がモラハラ被害者であることに気づく。
かつて、自分が酒を飲んで暴れる父の機嫌を取ろうとしていたように、娘も家庭の空気を敏感に察して行動していると感じた彩は、負の連鎖を断ち切り、子どもを守るため家を出た。
一方、自分の加害性を認識していない翔は突然、妻が家出をしたことに驚く。
自分に非があるとは思っていなかったが、SNSで似たような状況を経験した人が参加していた、DV加害者の変容支援コミュニティを見て、心境が変化。家事や育児を全て彩に任せ、甘えていた自分がいたことに気づいた。
そこで勇気を出し、DV加害者の当事者会に参加。参加者と話し合いをしたり、自らの加害的言動や考えの歪みを修正するプログラムに取り組んだりして、自分を見つめ直していく。
彩の家出から2カ月後。心を入れ替えた翔のやり直したいという要望を受け、彩は週末だけ同居し、夫が本当に変わったのかを見ながら離婚を決めることに。
夫が変わる可能性はほぼゼロ。けれど1%でも望みがあるなら、それに懸けたい――。そう願い、対等な夫婦関係を求める彩と変わろうと努力する翔。必死にもがく2人の姿は、自身の結婚生活を見つめ直す機会を授けてくれる。
自分がパートナーに向けているもの、パートナーから向けられているものは愛情なのか、支配欲なのか。私も自覚なく、モラハラ加害者・被害者になってはいないだろうかと客観的に家庭を見つめたくなる。
自分が加害者側だと気づくと、認めたくない気持ちがこみ上げてくるかもしれない。だが、中川氏は「モラハラ加害者は変わることができる」と、力強いメッセージをおくっている。
そして、単にごめんと謝罪するのでなく、自分のモラハラ行為によって相手が感じた心の痛みやモラハラをするに至ってしまった自分の心の問題と向き合い、根本から変わることは加害者本人の幸せにも繋がるのだとも中川氏は語っている。
こうした作中の温かい言葉にも触れながら、モラハラ加害者は誰かを支配しなくても苛立たない自分を、モラハラ被害者は誰かの機嫌を取ることを軸にしなくてもいい人生を掴んでほしい。
この人となら、子どもがいてもいなくても、話し合い、手を取り合いながら人生を歩んでいける――。そう思える対等な夫婦関係が、あなたの日常にはあるだろうか。自分の胸に問いかけてほしい。
文=古川諭香