実は飯テロ作品?広瀬すず主演『水は海に向かって流れる』の原作マンガの魅力を知ってほしい
更新日:2023/6/22
筆者は職業柄、たくさんのマンガの紹介記事を書く機会があります。でも、本当に好きな作品ほど語彙がどんどん消失してしまうんです。例えば、先日、広瀬すず主演で実写映画化された『水は海に向かって流れる』(田島列島/講談社)。本作に至ってはとにかく好きすぎて「とても好きです」以外の言葉が出てきません。
なので、この記事では、本作のどの部分が「とても好き」なのかを書いてみたいと思います。
##怒るのを諦めたOLと、怒りたい男子高生の奇跡の出会い
進学する高校が自宅から遠いため、叔父の家に居候させてもらうことになった熊沢直達。引っ越しの日、最寄り駅に迎えに来てくれたのは何故か叔父さんではなく、初対面の大人の女性・榊さんでした。「叔父さんと同棲している彼女…?」と訝しく思いながら案内された家は、想定外のシェアハウス。そこには叔父さんと榊さんだけでなく、他にも女装占い師や世界を旅する大学教授が暮らしていました。彼らと生活を共にするうちに、直達は榊さんに不思議な気持ちを抱くようになります。
しかし、この榊さんと直達には、偶然にもとんでもない因縁がありました。なんと10年前、榊さんの母親と直達の父親が不倫。それぞれの家族を捨てて駆け落ちしたという過去があったのです。不倫の末の2人は1年で破局。直達の父親は元の家族のもとに帰ってきたものの、榊さんの母親は結局戻らなかったのでした。
##巧妙で軽妙なセリフをとことん楽しめる作品
こんな出会うべきではなかったような2人が、何の因果か一つの家で暮らすことになる…ドロドロ殺伐とした展開になっても全くおかしくありません。しかし、個性的なキャラクターたちが、かなりの頻度でクスッとしてしまうようなセリフを放つため、少しもドロドロしてこないのです。そこが「とても好き」です。
例えば、直達が母の元不倫相手の息子だということに偶然気づいてしまった榊さんが、そのことをシェアハウスの住人である教授に報告するシーン。重要な真実が明かされる場面ですが、教授はこんなことを提案します。
「辛いんなら何か変ないじわるして追い出したら」
「寝てるうちに布団の中にイワシの頭入れておくとかさぁ」
『水は海に向かって流れる』1巻#3より引用
寝ている間に生き物の首を布団の中に入れる嫌がらせと言えば、馬の生首をベッドに入れる映画「ゴッド・ファーザー」ですが、こちらはイワシ。大きな恐怖を与えることが全くできなそうな嫌がらせを、すぐに言い放つ教授のセンスのお陰で、私たち読者は重苦しい雰囲気に飲まれることなく読み進めることができるのです。本当に「とても好き」です。
##とんでもない飯テロ作品でもある
さらにこの『水は海に向かって流れる』は、魅力的な食べ物が登場しすぎる飯テロ作品でもあります。例えば、高級なお肉を惜しみなく使って直達にふるまってあげた、榊さんのポトラッチ丼(牛丼)。常陸牛や焼きおにぎりが美味しそうすぎるBBQ大会。ひとつの修羅場を越えた後にみんなで囲む、卵とじうどん。
物語が大きく動く時には、高確率で美味しそうな食事が登場するのです。セリフだけでなく、料理たちもまた、物語が暗く重い方向に引っ張られない、重要な役割を果たしているのです。「とても好き」です。
母親のある言葉が原因で恋愛をしない榊さんと、事実を知り、榊さんの荷物を半分持ちたいと願う直達。当意即妙なセリフ回しと美味しそうなご飯を贈りあいながら、関係を構築していく2人は一体どんな結末を迎えるのでしょうか?
##田島列島先生の最新作『みちかとまり』も必読
2023年5月には、田島列島先生の最新作『みちかとまり』の単行本1巻が発売となりました。早速読みましたが、これまた語彙を無くすほど好きになる、とんでもない作品です!
『水は海に向かって流れる』には、随所に民俗学の知識がちりばめられているのですが、『みちかとまり』はその要素をギュッと凝縮し、子どもの持つ独特の感性で味付けしたような作品です。見えざるものへの畏怖をとっても刺激されるこの作品もまた、「とても好き」です!!